PK戦は圧倒的にキッカーが有利だ。
横7.32m、高さ2.44mの広大なエリアを、たった11mの近距離から蹴られたボールから守らなければならない。
だからこそ、キーパーは巧みな駆け引きが要求される。
元々、身体能力で負けてるから榎田にレギュラー譲ってんだ。
だが俺には生徒会長として学年一の頭脳がある。
心理戦に持ち込むんだ。
「真田家の家訓その1
状況が不利な時は慌てず先延ばししろ」
絶対絶命のピンチ、俺は彼女に話かけることで間をとった。
「最後に聞きたいんだけどー。」
高坂瑞穂は余裕で返事した。
「何だ、どっちに蹴るか以外なら答えてやる。」
「真田家の家訓その2
プレッシャーはわからないようにかけろ」
俺はわざと最後と言った。彼女側は三本の内一本を決めたら勝ちなので余裕があるが、わざと俺が最後と言ったことで次で決めにくる。
そこに来る焦りに賭けるしかない。
「ウチの部員が君達との勝負を受けた時、君は何かを賭けたのか?」
どうでもいい話をして糸口を探る。
「いや、勝負を挑んだら快く受けてくれただけだ。」
「そうか、ウチの部員は最初、勝っても何もメリットのない勝負を受けて、今、一方的に廃部の危機に追い込まれてる!だから俺が君に条件を出しても文句ないだろ。」
「真田家の家訓その3
結論ありきで交渉しろ」
が効いたようだ。
「確かにそうだな。分かった、条件はなんだ?」
「上手いわ、まー君。さっきの二本は無しにしてくれって、仕切り直すチャンスだわ!ハンデをもらっても最後に勝てばいいのよ。」
後ろで京子が最もなことを言ってるが、高坂瑞穂は間違いなく天才だ。どんなハンデでも技術的に勝つことは不可能だ。
ここは心理的プレッシャーを感じる条件を出すしかない。
「よし、俺が勝ったら脱げ!」
俺は彼女の「女」の部分に賭けるしか無かった。
「真田家の家訓その4
弱点は見える所にある」
だ。そして御先祖様は「大衆を利用しろ」
とも言ってる。
「なっ…。まー君のドアホ!エッチ!何考えてんのよ!せっかく相手のくれたチャンスを!」
「京子、お前何でもするって言ったろ、だから同意しろ。」
「それとこれとは違うわよ!これ以上生徒会にも迷惑かけないで!」
「よし、条件の追加だ!俺が負けたらこの副会長の内藤京子が脱ぐってよ!」
こっち側がリスクある条件を先に飲んだフリをして断れない状況を作ることに成功した。