「プログラミングって、なんだか難しそう」
「ドローンって、専門家が使う特別な機械でしょ?」
もし、あなたがそう思っているなら、この記事を読み終える頃には、その考えは180度変わっているかもしれません。そして、あなた自身の手で、小さな翼を大空へ解き放つ準備ができているはずです。
この記事でお話しするのは、たった80gの小さなドローン「Tello(テロ)」と、世界中の子どもたちのために作られたプログラミング言語「Scratch(スクラッチ)」が出会うことで生まれる、魔法のような体験についてです。
特別な知識は一切必要ありません。必要なのは、ほんの少しの好奇心と「やってみたい」という気持ちだけ。
さあ、あなたの部屋を、リビングを、教室を、未来の滑走路に変える冒険へ、一緒に旅立ちましょう。
これは、ただの解説記事ではありません。あなたが、空と未来の創造主になるための、最初の一歩を記した物語です。
第1章:未来への翼、ドローンとプログラミングの出会い
私たちの世界は今、大きな変革の時代を迎えています。その中心にあるのが「ドローン」と「プログラミング」という2つのテクノロジーです。一見すると別々のものに見えるこの2つが、なぜ今、これほどまでに注目され、結びつこうとしているのでしょうか。
空の産業革命、ドローンが変える世界
「ドローン」と聞くと、どのようなイメージが浮かびますか? 趣味の空撮、あるいは少し物騒なニュースを思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、その本質は「空飛ぶロボット」であり、私たちの社会を根底から変える可能性を秘めた、まさに「空の産業革命」の主役です。
もともとは軍事技術として発展しましたが、技術の進歩と小型化・低価格化により、その活躍の場は驚くべき速さで広がっています。
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農業の未来を拓く: 広大な農地の上をドローンが自律的に飛行し、作物の生育状況を分析。ピンポイントで肥料や農薬を散布することで、収穫量を増やし、環境への負荷を減らします。これはもはやSF映画の話ではなく、日本の農業現場で現実のものとなっています。(出典:農林水産省「スマート農業の展開について」)
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インフラを守る空の目: 人が近づくのが困難な橋やダム、送電線の点検もドローンの得意分野です。高精細カメラやセンサーを搭載したドローンが、ひび割れや劣化を自動で検知。これにより、点検作業の安全性と効率は飛躍的に向上し、私たちの社会インフラを陰から支えています。(出典:国土交通省「インフラ維持管理における新技術導入」)
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物流のラストワンマイルを担う: 過疎地や離島への医薬品や食料品の配送、災害時の緊急物資輸送など、「物流クライシス」と呼ばれる課題への切り札としても期待されています。2022年12月には、日本でも「レベル4飛行(有人地帯での補助者なし目視外飛行)」が解禁され、ドローン宅配便がより身近な存在になる未来が近づいています。(出典:株式会社インプレス総合研究所「ドローンビジネス調査報告書」)
このように、ドローンは単なるおもちゃではなく、社会の課題を解決するための強力なツールとして、その存在感を増しているのです。
思考をカタチにする魔法、プログラミング
そして、もう一方の主役が「プログラミング」です。2020年度から日本の小学校で必修化されたことで、一気に身近な言葉になりました。しかし、「なぜプログラミングを学ぶ必要があるの?」と疑問に思う方も少なくないでしょう。
プログラミング教育の目的は、すべての子どもをプロのプログラマーにすることではありません。その本質は**「プログラミング的思考(Computational Thinking)」**を育むことにあります。
プログラミング的思考とは、簡単に言えば「目的を達成するために、物事を分解し、論理的に組み立てる力」のことです。
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分解: 大きな目的を、コンピューターが実行できる小さなタスクに分解する。
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パターン認識: 繰り返される手順や似ている部分を見つけ出す。
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抽象化: それぞれのタスクに共通する重要な要素だけを抜き出す。
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アルゴリズム設計: 分解・抽象化したタスクを、最適な順番で並べ、一連の「指示書(アルゴリズム)」を作る。
この思考プロセスは、プログラミングだけでなく、日常生活や仕事における問題解決、料理のレシピ作り、旅行の計画など、あらゆる場面で役立つ普遍的なスキルです。文部科学省がプログラミング教育を推進する背景には、AIが急速に進化する予測不能な未来において、子どもたちが自ら課題を見つけ、論理的に考えて解決する力を身につけてほしいという強い願いが込められています。
なぜ、ドローンとプログラミングを「一緒に」学ぶのか?
では、なぜこの2つを一緒に学ぶと良いのでしょうか。その答えは、**「思考の現実化(Embodiment)」**という、最高の学びにあります。
通常のプログラミング学習は、画面の中でキャラクターを動かしたり、計算をさせたりと、どうしてもデジタルの世界に閉じてしまいがちです。しかし、ドローンプログラミングは違います。
あなたがコンピューター上で組んだ命令が、目の前のドローンに命を吹き込み、物理的な空間を実際に飛び回る。
「前へ100cm進む」という命令が、本当にドローンを100cm前進させる。「90度右に回転する」という命令が、機体を正確に90度回転させる。この、自分の書いたコードが現実世界に直接影響を与えるという体験は、何物にも代えがたい感動と達成感をもたらします。
ある研究では、ドローンを活用したプログラミング学習が、児童の**「空間認識能力」**を有意に向上させることが報告されています。(出典:高橋暸介 他「ドローンによる空間認識力を育むプログラミング教育の実践とその評価」日本科学教育学会研究会報告, 2020年)
画面上の座標(X, Y)だけでなく、高さ(Z)や機体の向き(Yaw)といった三次元空間を意識しながらプログラミングを行うことで、抽象的な概念が具体的な身体感覚として身につくのです。
社会科の授業で、ドローンを使って農家の仕事を疑似体験し、テクノロジーが米作りにどう貢献しているかを学ぶ実践(出典:永田智子 他「小学校社会科第5学年の農業単元におけるドローンを用いたプログラミング教育の実践とその効果」日本教育工学会論文誌, 2021年)のように、他教科との連携も無限大です。
ドローンとプログラミングの出会いは、子どもたちに「論理的思考」と「創造力」、そして「思考を現実に変える力」を同時に与えてくれる、最高の教育パッケージなのです。
第2章:はじめまして、TelloとScratch
さて、ドローンとプログラミングがもたらす素晴らしい可能性が見えてきたところで、いよいよ今回の主役たちにご登場いただきましょう。航空法などの難しい規制を気にすることなく、誰でも安全に、そして直感的にプログラミング飛行が楽しめる最高のコンビ、「Tello」と「Scratch」です。
手のひらサイズの天才パイロット「Tello」
「Tello」は、ドローン界のリーディングカンパニーであるDJI社の飛行制御技術と、新進気鋭のRyze Tech(ライズテック)社のビジョンが融合して生まれた、画期的なトイドローンです。そのコンセプトは「世界一楽しいドローンを作る」こと。(出典:Ryze Tech公式サイト)
Telloがなぜ、プログラミング教育の入り口として世界中で選ばれているのか。その秘密は、小さなボディに詰め込まれた数々の魅力にあります。
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驚くほどの安定性: 重さはわずか約80g(バッテリー、プロペラ含む)。手のひらに乗るサイズでありながら、DJI譲りの高性能フライトコントローラーを搭載。まるで空中の一点に固定されているかのように、ピタッと安定してその場で静止(ホバリング)することができます。初心者にとって最初の関門である「安定して浮かせる」という操作を、機体が自動で行ってくれるのです。
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考え抜かれた安全性: 柔軟な素材でできたプロペラガードが標準で付属。万が一、人や物にぶつかってもダメージを最小限に抑えます。また、バッテリー残量が少なくなったり、通信が途切れたりすると、自動でその場に着陸するフェールセーフ機能も万全です。屋内での飛行が基本なので、天候を気にする必要もありません。
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プログラミングへの扉: これがTelloの最も重要な特徴です。Telloは、公式にSDK(ソフトウェア開発キット)を公開しており、さまざまなプログラミング言語から操縦することができます。その中でも、最も簡単に始められるのが、次にご紹介する「Scratch」なのです。
ちなみに、Telloには通常版の「Tello」と、教育用途に特化した「Tello EDU」という2つのモデルがあります。基本的な性能やScratchでのプログラミングに違いはありませんが、「Tello EDU」にはいくつかの特別な機能があります。
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ミッションパッド: 付属する4枚のマットを床に置くと、Telloがそのマットを認識し、IDや位置座標をプログラムで取得できます。これにより、「パッド1の上に来たら宙返りする」「パッド2からパッド3へ移動する」といった、より高度でインタラクティブなミッションを作成できます。
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編隊飛行(スウォーム): 1台のPCから、複数のTello EDUをWi-Fiで連携させ、同時にコントロールすることが可能です。まるでシンクロナイズドスイミングのように、複数の機体が織りなす programmed flight は、圧巻の一言です。
もちろん、最初は通常版のTelloで十分すぎるほど楽しめます。まずは1機、自分の思い通りに飛ばす感動を味わうことが何よりも大切です。
ブロックを繋ぐだけ!魔法の言語「Scratch」
Telloを操るための「魔法の杖」、それが「Scratch(スクラッチ)」です。
Scratchは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボが、8歳から16歳の子どもたちをメインターゲットに開発した、完全無料のビジュアルプログラミング言語です。(出典:Scratch公式サイト)
その最大の特徴は、テキスト(文字)のコードを一切書かないこと。「離陸する」「100cm前に進む」「着陸する」といった命令が書かれたカラフルな「ブロック」を、まるでレゴブロックのようにマウスでつなぎ合わせていくだけで、プログラムが完成します。
これにより、初心者がつまずきがちな「スペルミス」や「文法エラー」から解放され、プログラムの「論理的な構造」を考えることに集中できます。
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「もし~なら、~する」(条件分岐): 「もしバッテリー残量が20%より少なくなったら、着陸する」
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「~回繰り返す」(ループ): 「『前に進む』と『右に90度回る』を4回繰り返す」(→正方形に飛ぶ)
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「~まで繰り返す」(ループ): 「壁に近づくまで、前に進み続ける」
こうしたプログラミングの基本概念を、色分けされたブロックを組み合わせることで、遊びながら直感的に学べるように設計されているのです。Scratchのプロジェクトサイトには、世界中の子どもたちが作った数千万ものゲームやアニメーションが共有されており、それらをリミックス(改造)して学ぶこともできます。
Scratchは、「創造的に考え、体系的に判断し、協力して活動する」ための学習環境であり、その理念はTelloとの連携において、最高の形で発揮されます。
奇跡の連携「Scratch for Tello」
では、具体的にどうやってScratchとTelloを繋ぐのでしょうか。
Telloが発売された当初、公式にサポートされていたのは「Scratch 2.0 Offline Editor」という古いバージョンのScratchでした。これを利用するには、「Node.js」という少し専門的なソフトウェアをPCにインストールし、コマンドライン(黒い画面)を操作してTelloとの通信を中継させる必要がありました。今でもこの方法は可能ですが、初心者にとっては少しハードルが高いものでした。
しかし、TelloとScratchの人気が高まるにつれて、世界中の有志の開発者たちが、より簡単に連携できる素晴らしいツールを開発してくれました。
現在、最も手軽で推奨されるのは、「Scratch 3.0をベースに、Tello用の拡張機能をあらかじめ組み込んだ専用アプリケーション」 を利用する方法です。
これは、見た目や操作性は最新のScratch 3.0と全く同じでありながら、起動するだけでTelloを操作するための専用ブロックがパレットに追加されている、まさに「Tello専用Scratch」と呼べるものです。このアプリケーションを使えば、Node.jsのインストールや面倒な設定は一切不要。ダウンロードして起動し、PCとTelloをWi-Fiで接続するだけで、すぐにプログラミングを始められます。
この記事の実践編では、この最も簡単な方法を前提に解説を進めていきます。デジタルの世界(Scratch)と現実の世界(Tello)を繋ぐ架け橋は、今や誰でも簡単に渡れるようになったのです。
第3章:空飛ぶプログラムを作ってみよう!初めてのフライト(実践編)
理論はもう十分です。ここからは、実際にあなたの手でTelloをプログラミングし、大空(と言っても、まずは安全な室内ですが)へ送り出す手順を、一つひとつ見ていきましょう。
この章を読み終えれば、あなたは「ドローンをプログラムで飛ばしたことがある人」になります。心の準備はいいですか?
ステップ0:冒険の準備をしよう
まずは、冒険に必要な道具を揃えましょう。
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Tello本体: 主役の登場です。バッテリーが十分に充電されていることを確認してください。初めて使う場合は、満充電にしておきましょう。
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パソコン: WindowsまたはMac。これからいくつかのソフトウェアをダウンロードします。
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Wi-Fi環境: Telloは自身がWi-Fiアクセスポイントとなり、パソコンと直接接続します。そのため、インターネットに接続するためのWi-Fiルーターは必須ではありませんが、ソフトウェアのダウンロードにはインターネット接続が必要です。
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安全な飛行スペース: 最初のフライトは、必ず屋内の広い場所で行いましょう。周りに壊れやすいものがないか、人やペットがいないかを確認してください。6畳ほどのスペースがあれば十分です。
ステップ1:Tello専用Scratch環境を構築する
先ほどお話しした「Tello専用Scratch」をパソコンに導入します。ここでは、多くのユーザーに利用されていて評価も高い、有志によるオープンソースプロジェクト「Scratch3-Tello」を例に説明します。(2025年8月時点の情報)
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ダウンロード: Webブラウザで「Scratch3-Tello GitHub」と検索し、開発者の公開ページ(リリースページ)にアクセスします。そこに、お使いのPCのOS(WindowsかMac)に合わせた圧縮ファイル(例:
windows.zipやmac.zip)があるので、ダウンロードします。 -
展開(解凍): ダウンロードしたzipファイルを、分かりやすい場所(デスクトップなど)に展開(解凍)します。Windowsなら右クリックから「すべて展開」、Macならダブルクリックで解凍できます。
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準備完了!: これで環境構築は完了です。驚くほど簡単でしょう? 展開したフォルダの中に「Scratch3-Tello.exe」(Windowsの場合)や「Scratch3-Tello.app」(Macの場合)というファイルがあるはずです。これが、私たちの飛行管制センターになります。
ステップ2:Telloとパソコンを接続する
次に、パイロット(あなた)と機体(Tello)の通信回線を確立します。
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Telloの電源を入れる: Tello本体の側面にある電源ボタンを一度だけポチッと押します。機体正面のLEDが点滅を始めればOKです。
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パソコンのWi-Fi設定を開く: パソコンのWi-Fiネットワーク一覧を開きます。
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Telloのネットワークに接続: ネットワーク一覧の中に「TELLO-XXXXXX」という名前のネットワークが見つかるはずです。これがTello自身が発信しているWi-Fiです。これを選択して接続します。(パスワードは不要な場合がほとんどです)
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接続完了の確認: 接続が完了すると、TelloのLEDの点滅がゆっくりとした周期に変わります。これで、パソコンからの命令を受け取る準備が整いました。
重要: TelloのWi-Fiに接続している間、お使いのパソコンはインターネットには接続できなくなります。何か調べる必要が出たら、一度Wi-Fiを自宅のルーターに戻してください。
ステップ3:初めてのプログラム「離陸、そして着陸」
いよいよ、歴史的な瞬間が訪れます。世界で一番シンプルな飛行プログラムを作り、実行しましょう。
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Scratchを起動: ステップ1で用意した「Scratch3-Tello」のアプリケーションをダブルクリックして起動します。見慣れたScratchの画面が表示されるはずです。
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拡張機能を追加: 画面左下にある、ブロックの絵が描かれた青いボタン(「拡張機能を追加」)をクリックします。
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Telloを選択: 拡張機能の一覧が表示されます。その中に、大きく「Tello」と書かれた項目があるはずです。これをクリックしてください。
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Telloブロックの登場: 画面左側のブロックパレットに、緑色の「Tello」というカテゴリが追加され、「離陸する」「着陸する」といったドローン専用のブロックが表示されたことを確認してください。ブロック名の左にある丸いランプが「緑色」になっていれば、Telloとの接続は成功です。「赤色」の場合は、ステップ2のWi-Fi接続をもう一度確認してください。
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プログラムを組む:
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まず、黄色の「イベント」カテゴリから、**「緑の旗が押されたとき」**ブロックを、右側の広いスクリプトエリアにドラッグ&ドロップします。これは「プログラムを開始する合図」です。
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次に、緑色の「Tello」カテゴリから、**「離陸する」**ブロックを持ってきて、「緑の旗が押されたとき」ブロックの下にカチッと繋げます。
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最後に、同じく「Tello」カテゴリから**「着陸する」**ブロックを持ってきて、「離陸する」ブロックの下に繋げます。
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これで、あなたの最初のプログラムは完成です! その意味は、「緑の旗が押されたら、離陸して、その後、着陸する」という、非常にシンプルなものです。
ステップ4:いざ、テイクオフ!
Telloを床の中央に置き、あなた自身も少し離れて、深呼吸を一つ。
画面右上にある**「緑の旗」のボタン**を、マウスクリックしてください。
…どうですか?
あなたの目の前で、Telloが「フワッ」と静かに浮き上がり、短いホバリングの後、ゆっくりと着陸したはずです。
おめでとうございます!
あなたは今、自分の書いたコードで、物理的なオブジェクトを空中に浮遊させるという、驚くべき体験をしました。これが、ドローンプログラミングの魔法の入り口です。
応用編:四角く飛んでみよう!
一度飛んでしまえば、もう怖いものはありません。次は、プログラミングの基本である「繰り返し(ループ)」を使って、少し複雑な動きに挑戦してみましょう。目標は、空中に「見えない正方形」を描くことです。
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プログラムを改造する: 先ほどのプログラムの「着陸する」ブロックを一度外しておきます。
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前進と回転を追加:
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「Tello」カテゴリから**「〇〇 cm前に進む」**ブロックを持ってきて、「離陸する」の下に繋ぎます。数字は「50」くらいにしてみましょう。
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続けて、**「右に 〇〇 °回る」**ブロックを繋ぎます。正方形を描きたいので、角度は「90」にします。
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繰り返しブロックを使う:
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オレンジ色の「制御」カテゴリから、**「〇回繰り返す」**という、Cの字の形をしたブロックを持ってきます。
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先ほど繋げた「50 cm前に進む」と「右に 90 °回る」の2つのブロックを、この「繰り返す」ブロックの内側にはめ込みます。
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正方形なので、この動作を「4」回繰り返すように設定します。
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最後に着陸:
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「4回繰り返す」ブロック全体の下に、先ほど外しておいた**「着陸する」**ブロックを繋ぎます。
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完成したプログラムは、以下のようになっているはずです。
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緑の旗が押されたとき
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離陸する
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4回繰り返す
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50 cm前に進む
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右に 90 °回る
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着陸する
さあ、もう一度「緑の旗」を押してみてください。Telloは離陸後、前進、右折、前進、右折…と4回繰り返し、見事に空中で四角形を描いて、元の位置の近くに着陸するはずです。
これが「プログラミング的思考」の一端です。同じことの繰り返しを、コンピューターに効率よく実行させる。この小さな成功体験が、より複雑で、より創造的なプログラムへの扉を開いてくれるのです。
第4章:世界が広がる!Scratch for Tello活用ケーススタディ
基本的な飛ばし方をマスターしたら、次はその翼をどこへ向かわせるかを考える番です。Scratch for Telloの可能性は、単にドローンを飛ばすだけに留まりません。教育、遊び、アート…様々な分野で、あなたのアイデアを形にするための強力なツールとなります。ここでは、具体的な活用ケースをいくつかご紹介しましょう。
ケース1:教室が実験室に変わる!小学校での実践例
プログラミング教育が必修化された今、Telloは全国の小学校で「生きた教材」として注目を集めています。
算数 × ドローン:「飛ぶコンパス」で図形を描こう
「正三角形を描きなさい」と言われたら、コンパスと定規を使いますよね。では、ドローンで正三角形を描くには、どんな命令を送ればいいでしょうか?
「100cm前に進んで、120度左に回る」という命令を、3回繰り返せば描けるはずです。では、正五角形は? 正六角形は?
このように、図形の性質(内角や外角の計算)を考えながらプログラミングを組むことで、抽象的な算数の知識が、ドローンの具体的な動きとして目の前で証明されます。机上の学習では得られない、深い理解と感動が生まれる瞬間です。これは、文部科学省が示す算数の学習指導要領における「A 図形」の領域と深く関連する活動と言えます。(出典:小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編)
理科 × ドローン:見えない力を可視化する
Telloには、自分の姿勢を制御するための「IMU(慣性計測装置)」というセンサーが内蔵されています。Scratchのブロックを使えば、このIMUが計測する「加速度」の値をリアルタイムで取得することが可能です。
例えば、「自由落下」のプログラムを作ってみましょう。手でTelloを持ち、ある高さから手を離すと同時にプログラムをスタートさせ、着陸するまでの加速度の変化を記録・グラフ化します。すると、落下中は加速度がほぼゼロ(無重力状態)になり、着陸の衝撃で大きな値を示すことがわかります。
目には見えない「重力」や「加速度」といった物理法則を、センサーデータを通じて視覚的に捉える。これは、子どもたちの科学的な探究心を大いに刺激する実験となります。
社会科 × ドローン:空からの視点で地域を知る
前述の研究事例のように、農業やインフラの分野でドローンがどのように活用されているかを学ぶだけでなく、もっと身近な地域学習にも応用できます。
例えば、「自分たちの校庭のマップをドローンで作ろう」。
校庭の端から端まで、プログラムでTelloを自動飛行させ、真下を向かせたカメラで連続写真を撮影します。撮影した写真を後でつなぎ合わせれば、オルソ画像(航空写真のような歪みのない画像)のような、オリジナルの校庭マップが完成します。普段見ている校庭も、空からの視点で見ると新たな発見があるかもしれません。
ケース2:リビングが冒険の舞台に!家庭での楽しみ方
Telloの魅力は、学校だけでなく家庭でも存分に発揮されます。親子で一緒に頭を悩ませ、成功も失敗も共有する時間は、かけがえのない思い出になるでしょう。
障害物レースに挑戦!
家の中にあるクッションや椅子、段ボールなどでコースを作り、壁にぶつからないようにゴールを目指すプログラムを考えます。
Telloには、前方や横方向の障害物を検知する高度なセンサーはありません。だからこそ、工夫のしがいがあります。「〇cm進んだら、一度止まってカメラの映像を確認する」「距離は測れないけれど、機体下部の赤外線センサーが床を検知できなくなったら(テーブルの端に来たら)停止する」など、持てる機能を最大限に活用して難関を突破する論理力が試されます。
ドローンで宝探しゲーム!
親が家の中のどこかに「宝物(お菓子など)」を隠し、その場所までの「地図(プログラムのヒント)」を子どもに渡します。
「ヒント1:リビングの中央から離陸せよ」
「ヒント2:テレビの方向に90度回転し、3回宙返りせよ」
「ヒント3:そこからキッチンの方向に150cm進め」
子どもはヒントを元にScratchでプログラムを組み、Telloを宝物まで導きます。ゲーム感覚で、方向、距離、回転といったプログラミングの基本要素を楽しく学ぶことができます。
空撮アート作品を撮ろう!
Telloには720pの動画と5メガピクセルの静止画を撮影できるカメラが搭載されています。これも、もちろんプログラムから操作可能です。
「1秒ごとに10度ずつ回転しながら、10枚の写真を撮る」プログラムを実行すれば、面白いパノラマ写真が撮れるかもしれません。「ゆっくりと上昇しながら、真下を動画撮影する」と、普段の部屋がジオラマのように見える不思議な映像が撮れます。
手動の操縦では難しい、機械のように正確で滑らかなカメラワークをプログラミングで実現し、自分だけの映像作品を創造する。これもまた、プログラミングが持つクリエイティブな側面です。
ケース3:アイデアを共有!地域コミュニティやイベントでの活用
Telloは1台でも十分に楽しいですが、その楽しさは人が集まることで何倍にも増幅します。
プログラミング体験会の主役に
地域の公民館や科学館、あるいはPTAのイベントなどで、ドローンプログラミング体験会を開催するのは、非常に人気の高いコンテンツです。この記事で紹介した「四角く飛ぶ」プログラムは、体験会の鉄板メニュー。子どもたちが目を輝かせながら自分のプログラムでドローンを飛ばす姿は、参加者全員に感動を与えます。
究極の挑戦、シンクロナイズド・フライト
もし、教育版の「Tello EDU」が複数台あれば、究極のチャレンジである「編隊飛行(スウォーム)」に挑戦できます。
1台のPCから複数のTelloに異なる命令を送り、音楽に合わせてダンスをさせたり、空中に図形を描かせたりします。これには、それぞれの機体の動きを時間軸に合わせて正確にコントロールする、高度なプログラミング的思考が求められます。
「1号機が離陸して3秒後に、2号機が離陸する」
「全機が中央に集合した後、偶数番号の機体は右へ、奇数番号の機体は左へ広がる」
複雑な課題ですが、成功した時の達成感は計り知れません。そしてこれは、未来のドローン物流システムや、エンターテイメントショーで実際に使われている群制御技術の、まさに第一歩なのです。
第5章:学びのその先へ - Telloと広がるプログラミングの世界
Scratch for Telloで空を飛ぶ楽しさを知ったあなた、あるいはあなたのお子さんは、きっとこう思うはずです。
「もっと色々なことをしてみたい!」
その探求心こそが、学びをさらに深める最高のエンジンです。幸いなことに、Telloという翼は、あなたをさらに高いステージへと導いてくれます。
ScratchからPythonへ。次のステップへの架け橋
Scratchは、プログラミングの概念を学ぶための最高の入門ツールですが、その先には、プロフェッショナルな開発現場で実際に使われている「テキストベース」のプログラミング言語が広がっています。
Telloの素晴らしい点は、こうした本格的な言語にも対応していることです。特に、AI開発やデータサイエンスの分野で絶大な人気を誇る**「Python(パイソン)」**という言語を使えば、Telloをさらに高度に制御できます。
例えば、Pythonを使えば、こんなことが可能になります。
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PCのキーボードでリアルタイムに操縦するプログラムを作る
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Telloが撮影している映像をPC画面にリアルタイムで表示し、顔認識や物体検出といった画像処理を行う
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インターネット上の天気予報サイトから情報を取得し、「もし風が強かったら飛行を中止する」といった、外部データと連携したプログラムを作る
Scratchで「条件分岐」や「ループ」といった基本構造を直感的に理解していれば、Pythonの文法を学ぶことはそれほど難しくありません。
if battery < 20:
tello.land()
これはPythonのコードですが、Scratchの「もしバッテリー < 20 なら、着陸する」ブロックと、その論理構造が全く同じであることが分かるでしょう。Scratch for Telloでの体験は、決してその場限りの遊びではなく、本格的なプログラミングの世界へと続く、なだらかで頑丈な橋渡し役となってくれるのです。
ドローン技術の未来と、君たちが創る社会
私たちがTelloで遊んでいる今この瞬間も、ドローン技術は凄まじいスピードで進化を続けています。2025年以降のドローン市場は、AIとの連携がさらに加速し、より自律的な運用が主流になると予測されています。(出典:株式会社A.L.I. Technologies、株式会社インプレス総合研究所等の市場予測レポート)
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AIによる自律飛行: 将来のドローンは、単にプログラムされた通りに飛ぶだけでなく、搭載されたAIが周囲の状況を自ら判断し、障害物を避け、最適なルートを探索しながら目的地へ向かうようになります。Telloのミッションパッドを使ったプログラミングは、まさにこの「環境を認識して、行動を決定する」という自律システムの基礎を学ぶ体験です。
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あらゆる産業への浸透: 私たちがドローンと聞いてイメージする「点検・物流・農業」といった分野だけでなく、警備、測量、エンターテイメント、報道など、あらゆる産業でドローンの活用が当たり前になります。そこでは、ドローンを飛ばす技術だけでなく、「自分たちの業界の課題を、ドローンを使ってどう解決できるか」を考える創造力が求められます。
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「空のOS」をめぐる競争: これからは、多数のドローンを安全かつ効率的に管理・運用するための「運航管理システム(UTM)」、いわば「空のOS」が社会の重要なインフラとなります。Tello EDUで編隊飛行に挑戦することは、この未来の交通システムを構想する、壮大なシミュレーションの第一歩と言えるかもしれません。
今日、あなたがScratchのブロックを一つ置くこと。その小さなワンクリックが、10年後、20年後の社会を支える革新的な技術やサービスに繋がっているかもしれないのです。
付録:初心者のためのトラブルシューティング&安全飛行ガイド
冒険にトラブルはつきものです。Telloが思ったように動かない時、慌てずに以下の点を確認してみてください。
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飛ばない、反応しない:
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Wi-Fi接続の確認: パソコンが「TELLO-XXXXXX」のWi-Fiに正しく接続されていますか?
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バッテリー残量の確認: Telloのバッテリーは十分にありますか? ScratchのTelloブロックには「バッテリー残量」を調べるブロックがあるので、プログラムの最初にこれを表示させると良いでしょう。
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Scratch拡張機能の接続確認: Telloブロックの左にあるランプは「緑色」ですか? 赤色の場合、一度Scratchを再起動したり、Wi-Fiを再接続したりしてみてください。
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飛行が安定しない、ひっくり返る:
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プロペラの確認: Telloのプロペラには、回転方向によって2種類(AとB、または時計回りと反時計回り)あります。それぞれ取り付ける場所が決まっています。本体とプロペラに印がついているので、正しく装着されているか確認しましょう。これが間違っていると、絶対に安定して飛びません。
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平らな場所から離陸: 離陸する場所は、水平で平らな場所を選んでください。傾いていると、センサーが誤認識して不安定になることがあります。
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IMUキャリブレーション: 何度かぶつけているうちに、センサーの基準がずれてしまうことがあります。Tello公式アプリ(スマートフォン用)には、センサーを校正(キャリブレーション)する機能があります。飛行がどうしてもおかしい場合は、一度公式アプリに接続して、IMUのキャリブレーションを実行してみてください。
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安全に楽しむための約束:
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必ず屋内で飛ばす: Telloは非常に軽量なため、少しの風でも流されてしまいます。屋外での飛行は、紛失や事故の原因となるため絶対にやめましょう。航空法の規制対象外(100g未満)ではありますが、安全への配慮はパイロットの義務です。
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周囲の安全を確認する: 飛行させる前には、人やペット、テレビやガラスなどの壊れやすいものがないか、必ず確認しましょう。
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飛行中のドローンを手で掴まない: 緊急時以外、高速で回転するプロペラに触れるのは危険です。プログラムに必ず「着陸する」ブロックを入れるか、緊急停止用のキー設定(例:スペースキーが押されたら着陸する)をしておきましょう。
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結論:あなたも、空と未来の創造主になれる
私たちは、ドローンとプログラミングが持つ無限の可能性から始まり、TelloとScratchという最高の相棒に出会い、そして実際に、自分の手でプログラムを組んで空を飛ぶという、忘れられない体験を共にしてきました。
もはや、あなたの頭の中にあった「プログラミングは難しい」「ドローンは特別だ」という壁は、跡形もなく消え去っているのではないでしょうか。
プログラミングとは、難解な呪文の羅列ではありません。自分の頭の中にある「こうしたい」「こう動かしたい」というアイデアを、論理という翻訳機を通して、コンピューターに伝えるための「言葉」です。
ドローンとは、専門家だけが使う機械ではありません。その「言葉」を、現実の世界で表現してくれる、忠実で、最高の「身体」です。
Scratch for Telloは、その「言葉」と「身体」が、いかに楽しく、創造的で、私たちの世界を広げてくれるかを、教えてくれます。四角く飛ばす小さなプログラムが、やがては社会の課題を解決する大きなプロジェクトへと繋がる、その確かな一歩目になるのです。
さあ、この記事を閉じて、パソコンの前に座ってみてください。
あなたの目の前には、無限の可能性を秘めた、小さな翼が眠っています。
その翼に命を吹き込むのは、他の誰でもない、あなた自身です。
あなたの最初のフライトが、成功に満ちた素晴らしい体験になることを、心から願っています。
Welcome to the sky. Welcome to the future.
応援よろしくお願いします✨️


