『純情』原作小説 | パク・ヨンウ☆だぁ~い好き(*^^*)  

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『純情』の原作小説をやっと読み始めました。

冒頭部分が映画とちょっと違っているので、原作バージョンをご紹介したいと思います。

映画にはない映像を、頭の中で想像してみるのも楽しいものです ^^

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スタジオ1 プロローグ

 

夜を迎えた漢江は列をなして過ぎ行く車と、隙間なく立ち並んだビルの明かりをそっくり映していた。水が深いのは、自分の心の内を見せないようにしているのだろう。水というのは低いところにあるものだから、そうなのかもしれない。

 

この河の行きつく先が海なのだということは、だから世界で一番低いところにあるものが結局は海なのだと、男は考えた。チャムス(潜水)橋にほど近い自転車道路と河の水が交わる地点にある階段の踊り場。彼は河の流れに沿って下流へ、左側へ首を向けてみたが、海は遥か遠くにあって見えなかった。ただ光を反射している水面だけがぼんやりと遠ざかってゆく。

 

自転車に乗った若い男女が背後を通り過ぎた後、彼はポケットから何かを取り出し、街灯の明かりにかざした。それは、ずいぶん昔の白黒写真だった。写真の中には、海辺の岩の上に腰かけた10代後半とみえる少女が写っていた。ひっつめ髪を後ろに垂らした少女は、驚いたように心なしか口を開いていて、全体的にか弱く痩せた体格だ。

 

男は指で写真をなぞる。中指の先が髪と顔、首筋、胸を通ってスカートのすそまで、ゆっくりとすべった。そうしながら、息をすることも忘れているかのようだ。しばし時が流れた。ようやく携帯を取り出して時間を確認した彼は、慌てて立ち上がった。

 

 

スタジオの扉が開き、また閉じて、男は放送準備中のプロデューサーと放送作家に手を挙げて見せた。プロデューサーが声をかける。

「どうしてこんなに遅かったんだ。電話にもでないで」

「すまん。うっかりして」

作家が割り込んだ。

「これ、今日の台本です。ぎりぎりだから下読みもできませんね」

「さあ、5分前だ。スタンバイ」

プロデューサーの声を後ろに聞いて彼は録音室に入り、腰かけてマイクを引き寄せた。それを見ながら作家がこぼす。

「なにか悩んでいるのかしら。数日前からあんな調子ね」

プロデューサーが音響コントロール装置を操作しながら独り言のように答える。

「夏の終わりに夏バテするタイプだよ。去年の今頃もあんなふうだった」

「男性は秋によく体調崩すじゃない」

「男について、ちょっとは知ってるんだね」

「昔の彼氏がよく秋になるとダウンしたから」

「男ってまあそんなもんでしょう。だけどあいつはちょっと違う。夏バテするみたいに」

「順序を教えて」

男の言葉に作家がスタジオマイクをつかんだ。

「オープニングを読んだ後、とりあえず3番に行って」

 

 

男はコンピュータ画面に並んでいるリクエスト曲のコメントにさっと目を通し、台本を見て口の中で読んでみた。すぐに午後9時となり、プロデューサーが手で信号を送ってきた。彼がコメントを始める。

 

二人の囚人が、牢獄の小さな窓から外を見ていました。一人は湿った地面を、もう一人は夜空にきらめく星を見ていました。

 

信号に合わせて少し間を置くと、テーマ音楽が流れ始める。そしてコメントは続く。

 

同じ牢獄、同じ囚人服。置かれた身の上は全く同じでも、一人は地面を、一人は夜空の星を見ているのです。みなさんなら何を見ますか。

 

今日も暑かったですね。暑い暑いと文句ばかり言ってませんでしたか。もしそうなら、地面ばかり見ている人と同じです。真夏の蒸し暑さは、わたしたちに強靭な生命力を与えてくれる存在だと、考えてみてはいかがでしょうか。

 

「口ではあんなこと言って、自分はげっそりと疲れているくせに」

プロデューサーが愚痴っぽく言うので作家が笑う。

 

今日もたくさんのコメント、メッセージ、いただいております。まずはメールで届いたものをひとつ、読んでみたいと思います。

「夜空には星がひとつ、ふたつ浮かんできました」

お、この方は星を見あげるタイプですね。素敵です。今は9時。みなさんも夜空を見上げてみてください。ビルが立ち並ぶ中ではあっても、見える星もあるでしょう。さあ、続きを読みますよ。

「いつの間にかずいぶん時が経ちました。だけど、どんなに時が過ぎても忘れられない友がいます。今日は20年前の友に、とてもとても会いたい日です。これだけの時間が経っても、ついさっき別れたばかりのような気がします。星明かりを見ながら、その友と別れた日に聴いた曲をリクエストします。釜山より、キム・キルジャ」

 

そこまで読んで男の声が途切れた。しばらく言葉を失った後、震える声で続けた。まるで、冷水を浴びせられたように。

 

さんからの・・・・リクエストです。Bee Gees で Be Who You Are

 

 

男が、魂の抜けたような表情をしている。

「どうした、なにぼうっとしてる」

プロデューサーがマイクの向こうで怒っている。しかし彼は返事をしなかった。幻でも見るように、ぼうっと虚空を見ているのだ。次の言葉が出てくるまで少し間があり、そうして飛び出した言葉は作家の用意した台本ではなかった。

 

Bee Gees の Be Who You Are。この曲を、私の心にもしっかりと刻んでくれた友がいました。釜山のキム・キルジャさん、キルジャさんが覚えている人はイ・スオクでしょう。忘れてなかったんですね。忘れられるはずもない。あの美しかった少女を。あんなに愛おしかった彼女を。

 

そこまで話して彼は再び口を閉ざした。突然のことにプロデューサーも作家も言葉を失った。プロデューサーがマイクに向かった瞬間、彼の声が聞こえてきた。やはり台本とは違う。

 

20年前のことでした。私は指折り数えて夏休みを待っていました。ようやく夏が来て、はやる思いを乗せた船はずいぶんもどかしく感じられたものでした。

 

彼はポケットから写真を取り出した。漢江の河岸で見ていた写真だ。男は写真を目の前に立てかけた。写真の中の少女は、相変わらずちょっと驚いたような表情をしている。

 

こうして、彼の物語が始まった。