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「想い芽吹くまで」
6話
ベッドでウトウトしていると、隣の部屋のドアの開閉の音が微かだが聞こえた気がした。眠い目をこじ開けて、慶喜の無事を確認し就寝の挨拶を、とコネクティングのドアに手をかけた。
「慶喜さん、入ります。」
このドアはあちら側から鍵が掛けられるようになってはいるが、慶喜は前中を信用してか、このタイプの部屋で鍵を掛けていることはあまりなかった。
それでもプライバシーにと一言掛けて前中はドアを開ける。
「・・・っっ!」
前中は目の前にいる予想外の人物とその光景に次の句が出てこなかった。目の前の広いベッドにはやや酔っ払った感じの忠義が腰掛けていた。そしてその両手では甘えるように、前に立ち自分の足の間に居る慶喜の細い腰を抱き寄せていた。その状態で顔だけこちらに向けていた。慶喜は顔をこちらに向けつつもその手は兄の髪に優しく触れていた。胸元はいつもより開いていて、頬もお酒のせいか蒸気しているようだった。前中の頭は一瞬真っ白になった。冷静に考えればブラコンの忠義のことだ、そんな行動をしていてもおかしくないと考えられただろうが、ついさっきまで悶々としていた今の前中には刺激が強すぎた。
まるで二人の間に情事の気だるさが漂っているように見えてしまった。頭に血がのぼり、冷静に判断できない。頭の片隅でそんなことがあるはずが無い、慶喜に惚れている自分の見方がおかしいのだ、と分かってはいるが、胸が苦しくて張り裂けそうだった。今にも忠義と慶喜の間に入って二人を引き離し、自分の下に慶喜を組み敷きたい衝動に駆られた。 それでも相手は次期三代目、前中はやっとのことで自分を踏みとどまらせた。
「あ・・お二人ともおかえりなさい。っ・・その、慶喜さんにご挨拶をと思いまして・・お邪魔だったようですね。」
まともに二人と目を合わせられずに前中が言うと、忠義がおちゃらけて言う。
「本当だぜ~ったく。せっかく兄弟の愛を確かめ合ってんのによっ。なぁ、慶?」
「兄さん・・飲み過ぎだよ。」
柔らかく嗜める慶喜の言葉を無視して忠義は続ける。
「いいんだよっ!今日は気分がいいんだから。ああ~ここに俺の子でも孕んでねぇのかな~」
と、忠義は慶喜の腰を抱きすくめて腹に頭を埋める。さすがに慶喜は兄を引き離そうとしているが、前中には二人がいちゃついているようにしか見えない。もう前中の頭からは、忠義が女好きなことや慶喜が兄に弱いこと、二人が兄弟であって、今は多分にお酒が入っている状態だろうということも吹っ飛んでいた。忠義に対する嫉妬で気が狂いそうだった。
何も言わずに前中はドアを閉めて自室へ戻った。
前中は自室に入るなり部屋に備え付けのウィスキーをストレートで呷った。憂さ晴らしで身近なものを破壊するわけにもいかない。やりきれない気分だった。
俺は馬鹿だ・・ちょっとは慶喜さんに近いところに居る気がしていた。彼のことを分かってあげられる唯一の存在だと自分で勝手に心の何処かで思っていた。でも違った。彼の一番は何処までいってもいつも忠義さんなんだ・・。俺なんてその間に入ることもできない・・。
前中は目の前が暗く、全てが閉ざされた気がした。自分がこんなに弱い人間だとは知らなかった。
しばらくしてコンコンと静かな音がした。慶喜の部屋からだ。
「友さん、入ってもいいですか?」
前中はグラスを前にソファーにうなだれたまま無言だった。様子を怪しんだのか心配そうに慶喜がコネクティングのドアから顔を出した。
「友さん?」
ベットサイドしか灯りがついていない薄暗い部屋に慶喜は目を凝らす。前中はソファーに座っているようだ。そのまま寝ているのだろうか返事は無い。近づいてもう一度声を掛けてみる。
「友さん、寝てるんですか?兄さんが俺のベットで寝ちゃったから、関さんに言ったら代わりに俺が兄さんの部屋で寝ることになって・・・」
近づいてそっと横に腰掛ける慶喜の身体を前中は突然力任せに押し倒していた。
「・・・!!友さんっっ!?」
前中の虚ろな瞳が感情も無く慶喜を見据える。その奥には激しい情欲の熱が秘められていた。慶喜の両手をソファーに押さえつけながら、何も言わずにゆっくりとその首筋に噛み付くように舌を這わせる。慶喜は訳が分からず目を見開いている。前中の舌がゆっくりと下に下降して行き、開いた胸元から覗く乳首を舌先で転がされた時に我に返ったように抵抗をした。
「ちょっ・・!友さん!!俺は慶喜だよっっ・・」
女と間違えていると思っているのだろう。必死に身を捩る。前中は自分の腕に更に力を込めて慶喜の腕を押さえ込んだ。もがこうとする慶喜の膝も、自分の足を乗せて押さえ込んだ。いくら体格が違うとはいえ、本当なら慶喜は自分をいつでもしとめられたはずだ。慶喜は常に服の下に獲物を潜ませている。そういう訓練も受けてきたはずだ。口の中で慶喜の乳首や慶喜の肌を味わいながら、前中は恍惚感に酔いしれ、頭の隅でそんなことを考えていた。きっとこの先も、身も心も慶喜は自分のものにならない・・自分のことに見向きもしない・・それならいっそ今この人を貪れるまで貪ってしまいたい。その間に獲物で攻撃されても良い・・。むしろこの報われない思い丸ごと一思いに消滅できたら・・この人の手で・・。前中はそんなことを考えながら、慶喜の両手を今度は慶喜の頭の上で一くくりにし、片手で掴んだ。もう逃がさないという気持ちは無い。慶喜に制されるまで存分に慶喜の身体を味わうことにしたのだ。