この先すずの妄想です。

翔ちゃんとかずくんはラブラブ。大丈夫な方はどうぞお進みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めずらしく鳴らしたカーラジオでは、

 

「陽射しが春めいて来ましたね。」

 

なんて、パーソナリティーがありきたりなコメントを口にしてる。

 

ジムでひと汗流した帰り道、閉め切った車内は、たっぷりと降り注ぐ陽の光で温室のようにポカポカと暑いくらいだ。

 

わずか5分程の道のりを走らせて家に帰り着けば、直行するのはキッチン。

 

まずはビール!

 

と、冷蔵庫に手を掛ければ、

 

 

『洗濯物、先に出しなって。』

 

 

今は不在のかずの声が聞こえた。

 

 

「おっ、そうだそうだよな。」

 

 

居もしない相手に調子ばかりは良い相槌をうって、俺は素通りしてきたリビングを振り返る。

 

濡れたTシャツにハーフパンツ、下着にタオル。

汗っかきの俺の汚れ物で、小さくもないナイロンバッグはいびつに膨れて転がっていた。

 

 

「すぐやりますとも。」

 

 

とは言え、やっぱりビールの誘惑にはあがなえなくて、俺はよく冷えたアルミ缶を掴めば、

 

 

プシュッ

 

 

小気味良い音とほぼ同時に、そいつに吸い付いた。

 

 

「うめぇ〜!」

 

 

やっぱ、身体を動かした後の一杯は格別だよな。

 

五臓六腑に染み渡る心地よい爽快感。ひとつ大きく息をついて、上唇に残る泡の感触をチロリと舌先でなぞれば、あらためて静かな部屋を見渡した。

 

 

今日は新しいCMの撮影…だったかな。

 

 

かずがいつも小さく丸まって身を寄せているソファーの端に目を遣れば、頬は自然と緩んだ。

 

 

 

 

結構呑む俺と、さほど呑まないかず。

かずは俺が旨そうにグラスを煽るのを見ては、いつも機嫌よく笑ってる。

 

 

可愛いんだよな。

あの笑顔で何杯でもイケちゃうよ。

 

 

早くも一本目が空いて、2本目をと再び冷蔵庫に手を掛ける。

 

すると、

 

 

『しょおちゃん、洗濯。』

 

 

またも声が聞こえた。

 

 

「仕方ねぇ。」

 

 

俺は、目に浮かぶかずの愛らしい不平顔に二本目のビールを諦めると、パンパンのバッグを片手ですくい上げ、ランドリーへと向かった。

 

 

 

 

 

腰を屈めて、

 

 

パコン。

 

 

洗濯機の扉を開けて中を覗けば、そこには昨夜のふたり分のシャワーの名残り。

そこへドサドサとバッグの中身を追加する。

 

 

「ええと、洗剤は〜。」

 

 

周りを見渡したところで、見慣れたボトルが無いことに気がついた。

 

 

ストックヤードを覗けば、ボトルは2種類。

最近コマーシャルが頻繁な濃い〜のと、無臭化バージョン。

 

『しょおちゃん、その歳で太るとマジ戻んないからね?』

 

『おっさん腹のしょおちゃんとか、ごめんだかんね。』

 

などなど、恋人から厳しめに釘を刺されている俺は、最近では家でもトレーニングに励んでいるわけで、かなりの頻度で汗をかいている。

 

そのうち、

 

『しょおちゃん臭い。』

 

なんて、新たなクレームが発生することも憂慮され、

 

 

「はい。無臭化にさせていただきます。」

 

 

紫のボトルを掴んだ。

 

 

 

 

スイッチを入れて洗剤投入。柔軟剤だってお決まりのアレを忘れない。

 

しょおちゃんだって洗濯くらいできるぜ。

 

『洗濯したの?すごいじゃん。』

 

かずのびっくり笑顔を思い浮かべては、バシャンバシャンと丸窓を打つしぶきにうっとりと見入るのだった。

 

 

 

小さなドラムの中で、かずのシャツと俺のと、まるで追いかけっこをしているみたい。

しばらく眺めていれば、洗濯物まで俺のがかずのを追いかけていて、鼻の下がむずむずする。

 

 

「もう、いちゃいちゃすんなよ〜。」

 

 

仲睦まじい2枚のシャツにちゃちゃを入れ、立ち上がろうと深く折った膝を伸ばしかけたところへ、

 

 

「なにやってんの。」

 

 

空耳じゃないかずの声が降ってきた。

 

 

 

 

とてっ……。

 

咄嗟に頭を振れば、バランスを崩しその場に尻もちをつく。

 

こころ躍る恋人の早々の帰宅。

けれど、見上げれば、朝に咲く真白なマグノリアのように、柔らかな頬したおもては何故か険しい。

 

 

「なにって、洗濯?」

 

「それはわかってるけど。それ。」

 

 

かずの冷えた視線を辿って行き着いた己の胸には、柔軟剤のボトルが抱えられていた。

 

 

「あ?え?」

 

 

それにしたって、不機嫌の理由がわからない。

けれどそれは、すぐに明かされて、

 

 

「何でまあくん抱きしめてんのよ。」

 

 

ぷくり。

 

膨らんだ頬に紅がさした。

 

 

まあくんだきしめて……?って、

確かにこれは、雅紀がCMしてる柔軟剤のボトルだけれども。

 

 

俺はかずの顔をまじまじと見つめる。

するとじわじわと潤む硝子の瞳。

 

 

これは単なるボトルに過ぎないんじゃね?

 

 

首を傾げれば、耳たぶをさくらんぼ色に染めた。

 

どういう事?

そういう事?

 

このかわいい膨れっ面め。

 

俺は唐突にかずの手を引く。

 

すれば、よろよろっとよろけたかずが腕の中に落ちてきて、それに押し出されるように柔軟剤のボトルは、ゴトンと音をたてて床に転げた。

 

 

「こんなもんにヤキモチ妬くなよ〜。」

 

 

俺は嬉しくて、

 

 

「は?」

 

 

かずをぎゅうぎゅうと抱きしめる。

 

 

「わかりやすいな〜、可愛い奴め。」

 

 

胸の真ん中のキュンキュンボタンを無自覚に押しやがって。

 

 

「何言ってんの?ばかなの?そんなの抱いてたから、ばかがうつったの?」

 

 

もがくけど、どんなに減らず口を叩いたって、暴れたって放してなんかやんない。

 

くすくすと笑い、甘い香りのかずの首筋に鼻を埋め、未だ抵抗収まらぬ身体を、あぐらの中であやすように揺らす。

 

やがて、

 

 

「もう。」

 

 

諦めたとばかりに小さなため息をつけば、きみはすっと俺の胸に馴染んだ。

 

 

 

すぐヤキモチを妬くかずは、

ヤキモチ妬きじゃないと言い張る天邪鬼で。

 

特効薬は、今のところ、甘いキス以外に見つかってはいない。

 

桜色のくちびるの端を舌先でつつけば、ほころぶつぼみのように開くそれ。その中には花芯にも似て、赤く膨らむ舌先がちらりと見えた。

柔らかな花びらを深く合わせて蜜を吸う。

やがてコリッと舌先が触れ合えば、ただ夢中で貪り合うだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

……カンソウヲハジメマス……

 

無粋な電子音に、

 

 

「勝手にしとけよ。」

 

 

俺は丸窓を拳の先で小突く。

 

ちらりと見えたドラムの中でも、俺のシャツはかずのそれをすっかり抱きくるんでいた。

 

うっとりと蕩けた恋人を、覆い被さる様に抱き直し、キスの続きを始める。

 

 

「しょおちゃ……」

 

 

漏れる声音は微熱を帯びて。

 

 

「ベッド行くか。」

 

 

でも、きみはもう歩けやしないよな。

 

 

花開かんとする、美しきマグノリア。

 

 

俺はその背に腰に腕を回すと、ゆっくりと抱き上げるのだった。

 

 

 

fin

 

 

 

おはなしに関連性はありませんが

@早春 繋がりで(笑)よろしかったらこちらも覗いてみてください。

→💛「二宮くんのころもがえ@早春」

わかさんの素敵絵もありますよ〜(*´ ˘ `๓)

 

お付き合いありがとうございます。

 

すず