あらすじ

「年齢問わず、高給保証!実質労働時間わずか。旅のお手伝い。NKエージェント!!」 この求人広告を手に「NKエージェント」を訪れた元チェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)は、社長の佐々木(山崎努)から思いもよらない業務内容を告げられる。その仕事とは、遺体を棺に収める"納棺"という仕事だった。戸惑いながらも、大悟は妻・美香(広末涼子)に仕事内容を偽り、納棺師の見習いとして働き出す。(C)2008 映画「おくりびと」製作委員会

 

死、愛する人との別れ…この手のテーマは苦手です。そういうことについては一切考えず能天気に生きていけたらどんなに楽だろうと思います。しかし『おくりびと』は、センシティブなテーマを扱っていながらも、私のような人もライトに楽しめる、シリアスさと温かみの調和がとれた作品でした。雨の日にひとりで観たくなるような、ちょっと大人向けのジブリ作品を実写化したような、そんな静謐な雰囲気が心地よかったです。(エンドロールで久石譲さんが出てきて納得。)

 

作品全体を振り返ってみると、「死」についての映画かというと必ずしもそうでもないです。確かに「死」をとりまく人間の心境はリアルに描かれているけれど、それは(例えば『ほたるの墓』のような戦争系作品にみられる)「生」と対峙する存在としての「死」とはちょっと違うと感じました。むしろ植物を育てる場面や食べる(命をとりこむ)場面といった、「生」を感じさせる場面が生き生きと描かれている。そして、その隣には必ず「死」が存在する、ということを意識させる描き方になっている。う~む、自分でも咀嚼しきれていないところがあって上手く言い表せないのですが、なんかこう、「死」が「生」という日常に溶け込んでいる感じ。で、両者の境界線を曖昧にすることで、「生vs死」という対比そのものを崩している、とでもいいましょうか。(でぃこんすとらくしょん的なやつが言いたい)この対比をぼかすことで、このテーマが与えうる重くて暗い印象を払拭することに成功しているのではなかろうか、というわけです。

 

『おくりびと』という大和言葉の語感も、作品全体を包む温もりに通じるところがあって、「納棺師」という無機質な表現よりもぐんと魅力が増しますよねぇ。それに、「〇〇師」より「〇〇びと」の方が、「仕事=肩書きを得ること」みたいな固定観念にとらわれていない感じがして好印象です。『ライ麦畑でつかまえて』に登場するホールデンのいうところの‘the catcher in the rye’(直訳するとライ麦畑の捕手)みたいな、ね。(といっても伝わりにくいかもしれませんが。)

 

ちなみに、この映画の英語タイトルはDeparturesだそうです。それぞれの旅立ち、そんな感じかな?The Catcher in the Ryeという題が直訳しにくいように、『おくりびと』を英訳した人も頭を抱えたのかな。the catcher in the ryeを日本語に無理やりするなら「〇〇びと」になりそうなのに案外しっくりくる表現が見つからない(つかまえびと?笑)。逆に『おくりびと』を無理やり英語にしようとすると今度は的確な〇〇er/orという表現が見つからないんですよね~。今日はこのへんで。