バイバイ・ブラックバード
Bye Bye Blackbird
さよならブラックバード・・・私がさよならしたかった黒いものは・・・
私がラブ・ホテルの経営者だとわかると、
「○×のラブホは覗き部屋が、あって、そこから裏ビデオへ流出しているでしょ?」
なんて、訳知り顔で聞いてくる、お馬鹿さんに時々出会う。
いわゆる、ラブホ都市伝説の一つだ。業界の名誉の為にも断言するが99%覗き部屋なんて作っていない。
残りの1%は判らない。1%とは、教師が中学生と援助交際したり、医者が麻酔をかけて患者に悪戯するように、どんな、業界にも愚か者は存在するからだ。
要するに業種では無く個人の資質の問題だからだ。しかし、健全経営をしている、ラブホでは、有り得ない。ラブホのオーナー達はこの種の噂が立つことを毛嫌いしている。その噂が死活問題になるからだ。幾らで裏ビデオが売れるか知らないが、そんな端金で自分の首を絞めるような愚かな真似をする経営者はいないと再度断言する。
ラブホの経営者はお客さんのプライバシーを守る為には、人一倍、神経を尖らせているし、お金も掛けている。ある意味シティ・ホテルより安全と言えると思う。お客さんが安心して利用できるように日夜努力を重ねている。
「ラブホテル隠し撮り・・」なんて煽情的なタイトルのビデオが有るが冷静に見れば(まあ、普通この手のビデオは冷静には見ないがWW)カメラ・アングル等、明らかに作り物と気付くはずだ。
外部からの侵入者にも、対策を講じている。私のホテルも万全を期す為、スタッフが構内を常時朝夜と巡回している。
そんなある日、警報が鳴った。スタッフの一人が飛んでいくと建物の側に足跡を発見した。
もちろん、ホテルの構内に入っても、部屋の中は見えないのだから、目的がわからない。物盗りかも知れない。足跡から判断すると、どうも、隣接するゴルフ場との間の山から有刺鉄線を乗り越えて侵入したようだ。
翌朝、私は蜘蛛の巣だらけになりながら、篠や雑木をかきわけ裏山を歩いてみた。すると、確かに人の通ったような跡がある。少年時代の探偵ごっこを思い出しながら、跡を辿って行くと、ゴルフ場の管理道路に続いているように見える。
「深夜に、あんな真っ暗な山の中、乗り越えて来る奴なんて特殊訓練を受けたレンジャー以外いませんよ。思い過ごしですよ。」
というスタッフの声もあった。
それくらい、すごい、藪なのだ。私も同意したかったが、念には念を入れて、厳重に柵を補強し、罠も仕掛け、スタッフの皆にも注意を呼びかけた。
その夜から、車でゴルフ場の管理道路の巡回も始めた。
それから何日かが過ぎた。(やはり、俺の思い過ごしだったのかな。)と考えながら車を走らせていた。狭い砂利道の最後のカーブを曲がると、いきなり、目の前にトランクを開けて止まっている黒いレガシーが現れた。先日、私が歩いて山を降りてきた管理道路の突き当たりだ。
「ビンゴ!」私は、思わず叫んだ。車のライトを消して様子を伺った。人の気配は無いようだ。その時、車の後ろで何か動いた。私は車のライトをハイ・ビームにし、懐中電灯も向けた。光の中に浮かび上がったのは、前身黒ずくめの男だった。
まるでミッションインポッシブルのイーサンハントだ。
対峙したまま、お互い動けなかった。私は自分の心音が聞こえた。
私は我に帰り、まず、車のナンバーを書き取った。それから、警察に電話しようと、携帯を手に取った。
今だったら携帯で動画も撮れるのになぁ…
この当時はアンテナ伸ばす携帯電話です。通話オンリーでしかも圏外だらけ(笑)
(なんてこった!圏外だ!)
私は「冷静になれ!」と言い聞かせ、状況を良く把握しようと目を凝らした。顔には、墨が塗ってあり、人相はわからない。男は車に何か釣り竿のようなものを立てかけている。よく見ると、TV局で使う集音マイクみたいなものだ。
(そうか、盗聴か!)
すると、男が車のトランクから何か取り出した。車のライトにキラッっと鎌みたいなものが反射した。
男が、鎌を手に持ち、威嚇しながら、こっちに向かってきた。私は、焦ってギアをバックに入れ逃走した。どうやって、あんなに早くバックで、走れたのか今でも思い出せない。やっとの思いで山道に出て車をUターンさせ、事務所に戻り、スタッフに警察に電話するよう指示し、武器になりそうなゴルフクラブを車に投げ込み、再度、現場に向かった。
パトカーが来るまで、奴を管理道路に封じ込めようと思ったのだ。この間10分位が経過していた。管理道路を入っていくと、突き当りの車は、すでに跡形も無く消え去っていた。
私は、右手にゴルフクラブ、左手に懐中電灯を持ち、恐る恐る車から降りた。何か証拠になるような物が無いか近辺を捜したが、何も見つからなかった。私は入口まで戻りパトカーの到着を待った。イライラしながら待っていると、20分位たってから、やっとパトカーが来た。
降りてきた警官に私は事情を説明し、緊急配備を頼んだ。
返ってきた答えは
「こんな事で、非常線なんか張れないよ。」
確かに、後で冷静に考えると警官の言うとおりなのだが、私は興奮していたので、まくし立てた。
「冗談じゃない!覗きだって立派な犯罪だろう?車の番号だってこうやって控えてあるんだ。さあ、早く検問やってくれ!」
「いやあ、覗きは現行犯じゃないと逮捕できないよ。しかも、覗いている現場を見たわけじゃないでしょう?」
「じゃあ、私有地に不法侵入!なんでもでもいいから、早く捕まえて!」
(これも、後から考えると、私もゴルフ場の私有地に毎晩不法侵入していたのだが。)
「それも、現行犯じゃなきゃ駄目。」
警官と私の押し問答が始まった。私の剣幕に押されたのか、もう一人の警官が私の控えたメモを手に取りパトカーに乗り込み、無線で所有者確認を始めた。
確認が終わり、パトカーから降りてきた警官が言った。
「黒のレガシー。車種、カラーは一致しますね。」
「当たり前だ。俺は毎日、何十台と車の番号を控えているんだ。それが仕事だ。」
と言いながら、警官が手に持っている書類に書き込まれた所有者の住所と名前を頭に叩き込んだ。
「警察としては、何もできないので、今後は巡回を強化します。」と言い残してパトカーは帰っていった。
私は、事務所に戻り、覚えこんだ住所と名前をメモに書き写した。コーヒーを飲みながら考えた。(警察は当てに出来ない。自衛策は?)
受話器を手に取り104を呼び出した。
(再び、ビンゴ!)該当者有りだ。私は機械音が告げる番号をメモに書き写し、とりあえず、帰宅したが興奮していて、幾ら呑んでも酔えなかった。
翌日、昼過ぎ、事務所に行き、二日酔で、がんがんする頭を押さえながら考えた。いいアイデアが浮かんでこない。しかし昨夜の怒りと恐怖は、まだ収まっていなかった。適当な言葉が思い浮かばないまま、昨日のメモの電話番号を押した。
「はい、山田です。」覇気の無い老女の声だ。
咄嗟に口から言葉が出た。
「○×警察のものだが、太郎さんは、いますか?」
「今、仕事に出ていますが、どんな、ご用件でしょうか?」
あきらかに、驚き怯えた声だ。私は、少し良心が痛んだが昨晩の怒りを思い出し、さらに突っ込んだ。
「お母さんか?ちょうど良かった。○○番の黒のレガシーは、太郎さんが乗っている車だね?」
「はい、そうですが。息子が何か?事故ですか?」母親が焦って聞いてきた。
「いやあ、違いますよ。ただ、昨晩、息子さん遅くに帰ってきたでしょう?」
「はい・・・。あの、どちらの警察ですか?」
母親は警戒し出した。私はそろそろ、引き時だと思い、
「息子さんが、帰ってきたら伝えて下さい。下らない趣味を早くやめないと刑務所行きでお母さんを泣かすようになるよ。」と言って電話を切った。
横で聞いていたスタッフの後藤が、目を丸くして私に言った。
「いやあ、警察カタリは拙いんじゃないですか?」
「他に名案があるかよ。間違いなく、こいつがクロだよ。警察は、なにもしてくれないよ。へたすりゃ、昨日の夜、俺は鎌で殺されていたかもしれないんだぜ。」
「それも、そうですね。」
「まあ、これで二度と、うちには来ないだろう。しかし、人の秘め事聞いて何が楽しいんだろうな?」
「盗聴したい奴に、聞かせたい奴。世の中、色々ですね。」と後藤が呟いた。
私は聞き返した。
「なに、それ?」
「ほら、昔いたじゃないですか?フロントに用も無いのに電話してきて喘ぎ声を聞かせて喜ぶお客が。こっちが切っても又かけてくる客ですよ。」
私は、思い出した。何回か来た客だ。みんな、こいつがチェックインするとフロント業務を嫌がった奴だ。私は更に昔の客を思い出し後藤に話した。
「俺がまだ学生で、ここでバイトしていた時には、もっと凄いのが来たぞ。電話でビールの追加が入ったんだよ。俺が部屋に届けてチャイムを鳴らしたら、中から『今、手が離せないから、部屋に持ってきてくれ。』って野太い声がするんだよ。嫌な予感がしたんだけれど、しょうがないからビールを持って部屋に入っていったんだ。」
感のいい後藤が笑いながら言った。
「まさか?」
「そう、そのまさか?さ。お客さん、手が離せないわけだよ。背中一面綺麗な絵が描いてある強面のおじさんが、腰を動かしながら、振り向いて『おお、兄ちゃん。ご苦労。そこに座ってビールでも飲んでろ。』だぞ。」
「で、どうしたんですか?」
「決まってるだろう。『失礼しました。ビールここに置きます。』と言って退散したよ。後藤。お前だったらどうした?」
後藤はビデオを肩に担ぐ格好で
「『ナイスですねーー。』と言いながら入っていきますよ。」
と村西監督の真似をした。
Netflixの「全裸監督」シーズン2早く観たいです(笑)


