欠伸をしながらぺたぺたとフローリングを歩く。
ガチャりとリビングの扉を開けると、まだ部屋は薄暗い。
大体、6時半ってとこかな。
パチッと電気をつけて、ソファに腰をかける。
ぐっと手を上にあげ体を伸ばすと、透けた自分の腕が見えた。
というか俺の体は全体的に半透明だ。
まぁ、それにももう慣れたけど。
神様に叫ぶという奇行の後。
その後の記憶はふわっとしていてよく覚えてない。
気付いたら俺は、どこかの家の玄関にいた。
え、瞬間移動?
戸惑って、立ち尽くしていたら。
なんだか覇気のない感じで目の前のドアが開いて。
俯いたにのが、死んだみたいなにのが、ゆっくり入ってきた。
その時、何となく理解した。
俺は死んだ。
死んで幽霊になって、見たことのある場所、ここはにのの家。
にのの家に、飛んできたんだ。
「にのちゃん」
呼びかけずにはいられなかった。
届くような気がしたから。
バッとにのの顔が上がって、目が合う。
明らかに顔色が悪い。
睡眠も食事も取っていないようだった。
なにより。
いつもキラキラして好きだった瞳が、一切の光を失っていた。
俺が、失わせた。
「あ、いばさん...?」
「うん、にのちゃん」
「相葉さん」
「うん」
何度も何度も名前を呼ばれる。
いることを確認するように、夢かどうか確かめるように。
瞬きせず見開いたまま、ジワリと涙が浮かび始めて。
カタカタと震える手を、ゆっくりと俺に伸ばしてきた。
俺も伸ばして。
そのまますり抜けて。
指先が触れることは無かった。
にのの手が動く。
俺の手を掴もうと動く。
でも、すり抜けて触ることは出来ない。
当たり前だった。
俺は幽霊、この世に存在していないもの。
触れるわけなどなかった。
「ごめん」
中途半端に伸ばしたままだった手を、にのの頬へ持っていく。
やわらかい感触もあたたかい体温もなにも感じない。
苦しい。
目の前にいるのに、確かに触れているはずなのに、なんで。
にのの顔がどんどん崩れていって、絶え間なく涙が流れ始めた。
きっと全部わかったんだ。
俺が口にせずともにのには伝わったんだ。
「酷ぇよ、こんなん残酷すぎんだろ...」
「...ごめん」
泣きながらにのは俺の手がある場所に触れた。
嬉しいと辛いがごっちゃになって、グルグルして。
どうしていいか分からないみたいで。
そんなにのに、俺もどうしていいか分からなかった。
あれから俺は、にのと一緒に暮らし始めた。
暮らす、と言ってもお風呂もご飯も必要ないから、にのの家でただにのといるだけ。
寝る時だけは一緒にベッドに入って俺も眠ることが出来た。
でも、本当にそれだけ。
これは恐らく、取り憑いているということなのだろうが、取り憑かれても、にの自身には特に何もないらしい。
試しに、外に出たこともある。
でも街ゆく人に俺の姿は見えてなかった。
また試しに、にのの仕事に着いてったこともある。
そしたら、嵐のメンバーに俺は見えていた。
驚かれて、喜んでもらえて。
しょーちゃんは若干ビビってたけど。
どうやら、嵐の4人以外には、見えないようになっているらしかった。
「神様って、本当にいるんだな」
広めのリビングに大きめの独り言が漏れた。
あの時叫んだのは間違いじゃなかったのだと、自分が起こした奇跡に感心する。
だからこそ、触れられないことに苦しむんだけど。
ガタガタと騒がしい音が聞こえた。
しまったと、急いで立ち上がり寝室に向かう。
俺がドアを開けようとするのと、開いたのが同時だった。
「相葉さん!!」
必死な顔のにのが怒鳴る。
額にはうっすら汗までかいている。
「ごめん、早く起きちゃってリビングにいたんだ」
素直に謝ると、大きくため息を吐いたにのがその場にしゃがみ込んだ。
良かったと小さく呟いている。
にのは、俺が死んだことがトラウマとなって焼き付いてしまって。
俺がちょっといなくなると心底慌てて探し出すようになった。
優しく言えば心配。
酷く言えば、依存。
そんなにのの姿を見るたびに、俺は思う。
壊したくなかったにの、元に戻って欲しかったにの。
でも、でもそれは。
こんな形だったのだろうか、と。
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終わらなああああい
しかも長ああああい
やばいどうしよ
前後編のつもりだったのに!
前中後編になりそう!
話暗いしいいい
あああなんでこんな暗いんだああ
ごめんなさああああい
薫子
