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あぁ・・思いだした。
遠いところにいこうとしていたのでした。
電車の長い座席のこちら側には、
私とあの人だけがのっていました。
向こう側には私と同い年くらいの子供たちが、
―合宿だったのでしょうか、はしゃいだ様子の
子供たちが、大勢居ました。
乗客は、それだけでした。
その子供たちの肩越しの窓からは、
海が見えました。
冬の曇天と境界を曖昧にしたままの海が、
のっぺりと横長に、広がっていました。
私はあのひとの手を、ぎゅっと握っていました。
いえ、正確に言うと、
先に私の手を握ったのは彼の方でしたが、
まあ、今となってはもう意味のない議論でございます。
永く永く、電車に乗っておりました。
お互いの手を握りしめているうちに、私たちはこっくりこっくり、
舟をこいで眠ってしまいました。
そこでは小さな夢を見ました。
彼に抱き起こされて、
海と島の間から昇る、
朝日を見る夢でした。
私たちはふたりとも、幸せの真ん中に居ました。
けれどふたりとも、幸せのあとには大きな
不幸が来ることを知っていました。
だからふたりとも、その朝日が私たちの幸せを
象徴していることに気が付いて、
でも気が付いたときにはもうどうしようもないということ自体もしっていたので、
朝日の美しさに目を奪われたまま、ただ呆然と
心の中で震えるばかりでした。
やがて目が醒めて、ふたりは顔を見合わせました。
そして目が合うといつでもそうしていたように、にっこりとお互いに向かって
微笑みました。
電車の中にはもう子供たちは居ませんでした。
向かいの窓から橙の西日が、音も無く浸透するように
車内を照らしていました。
私たちはさっきまでよりもずっと強く、
手を握りしめました。
なぜなら、ふたりとも
これから自分たちが幸せの
大きな代償を払わなくてはいけないことに、
あの夢を見たことによって否応なしに
気付かされていたからです。
電車はまだ、止まる気配がありませんでした。
それなのに、相変わらずのっぺりとしたあの海は
どこまでも続き、どこまでも同じ距離を保ったまま、
私たちの横を伴走するのでした。
私たちは、遠くへ行こうとしていたのでした。
Love
遠いところにいこうとしていたのでした。
電車の長い座席のこちら側には、
私とあの人だけがのっていました。
向こう側には私と同い年くらいの子供たちが、
―合宿だったのでしょうか、はしゃいだ様子の
子供たちが、大勢居ました。
乗客は、それだけでした。
その子供たちの肩越しの窓からは、
海が見えました。
冬の曇天と境界を曖昧にしたままの海が、
のっぺりと横長に、広がっていました。
私はあのひとの手を、ぎゅっと握っていました。
いえ、正確に言うと、
先に私の手を握ったのは彼の方でしたが、
まあ、今となってはもう意味のない議論でございます。
永く永く、電車に乗っておりました。
お互いの手を握りしめているうちに、私たちはこっくりこっくり、
舟をこいで眠ってしまいました。
そこでは小さな夢を見ました。
彼に抱き起こされて、
海と島の間から昇る、
朝日を見る夢でした。
私たちはふたりとも、幸せの真ん中に居ました。
けれどふたりとも、幸せのあとには大きな
不幸が来ることを知っていました。
だからふたりとも、その朝日が私たちの幸せを
象徴していることに気が付いて、
でも気が付いたときにはもうどうしようもないということ自体もしっていたので、
朝日の美しさに目を奪われたまま、ただ呆然と
心の中で震えるばかりでした。
やがて目が醒めて、ふたりは顔を見合わせました。
そして目が合うといつでもそうしていたように、にっこりとお互いに向かって
微笑みました。
電車の中にはもう子供たちは居ませんでした。
向かいの窓から橙の西日が、音も無く浸透するように
車内を照らしていました。
私たちはさっきまでよりもずっと強く、
手を握りしめました。
なぜなら、ふたりとも
これから自分たちが幸せの
大きな代償を払わなくてはいけないことに、
あの夢を見たことによって否応なしに
気付かされていたからです。
電車はまだ、止まる気配がありませんでした。
それなのに、相変わらずのっぺりとしたあの海は
どこまでも続き、どこまでも同じ距離を保ったまま、
私たちの横を伴走するのでした。
私たちは、遠くへ行こうとしていたのでした。
Love
もうすぐ大きな月が、みえるんだって。
その大きな月の綺麗さといったらきっと、
あなたに抱き起こされて見た
海の朝焼けや丘に輝く家の灯りに
似ているでしょう。
体は背を向け合ってるけど、
心は離れたところに居るけれど、
あなたもその月の
昇る黒い空を
見ていてほしい。
空の、月に隠れた裏側に
私はあなたへの想いを白い
フェルトペンで
描くよ。
返事は、無くていいよ。
ただ、伝えられれば・・・
Love
その大きな月の綺麗さといったらきっと、
あなたに抱き起こされて見た
海の朝焼けや丘に輝く家の灯りに
似ているでしょう。
体は背を向け合ってるけど、
心は離れたところに居るけれど、
あなたもその月の
昇る黒い空を
見ていてほしい。
空の、月に隠れた裏側に
私はあなたへの想いを白い
フェルトペンで
描くよ。
返事は、無くていいよ。
ただ、伝えられれば・・・
Love