ピンポーン
インターホンが鳴った。おそらく、ピザハットの従業員だろう。
お母さんは、電話に出るときのような高い声を出して「はーい!!」と言いながら、玄関へと向かった。
カチャ ガチャ
『あ、ピザハットのものです。ピザをお届けに参りました。』
『あ、はい。いくらですか?』
『2300円になります。』
『はーい。・・・はいっと。』
『丁度お預かりいたしました。こちらがピザです。』
『はい。』
『ありがとうございましたー。』
『はーい。』
カチャ ガチャ
「ほらー、ピザ届いたよぉ~。」
さっきのことで、力なく私がベットに横たわりながら、テレビを見ていると、お母さんはピザの箱を私の目の前に持ってきて、見せびらかした。
「あー、はいはい。分かったから。今いい所なんだから、そこどいてよー。」
私がそう言うと、お母さんは呆れたような顔をしながら
「また、アニメ見てー。なんだっけ?それ。ソードアート・オンラインだっけ?・・・全くオタクになってしまったものだわ。」
「だ、だからオタクじゃないって!!これくらいのアニメ、誰だって見てるわよ!!」
「そんな夜中のアニメを?」
「う・・・。まぁ、とにかく、私はオタクじゃないから!!!」
「・・・はいはい。」
私がオタク呼ばわりされるのを嫌だと知っていて、お母さんはそう言うので、からかっているのだと思う。
しかし人の嫌うことをするとは母親として、有るまじき行為だと思う。
・・・と、言いつつもただ単に”反抗期”を裏返しただけにすぎないのだが。
「結構、原作に忠実ねー。」
私はごちゃごちゃした考えを振り払うように、そう言うと、お母さんは、パスタを茹でながら、答える。
別に、答えを求めていたわけではないのだが。
「そりゃそうでしょー。そうじゃないと、アニメできなくなっちゃうじゃない。」
「でも、青エクはアニメと原作全然違うらしいしー、アニメーションの意向によるんじゃないの?」
「まぁ、そうでしょーねー。というかその青・・・」
「知らないんだったらいいよ。父さんとは話通じるしね。父さんと話すよ。」
「はぁ~。うちのお父さんもしっかりしていたら、こんなにオタクにならなかったのかしら・・・。」
お母さんはため息をつきながら、上を見上げる。
キッチンの上にはお父さんの部屋があるのだ。
―だけど、仕事はしっかりしてるじゃない。趣味程度でアニメを見るくらいいいじゃない。一週間の中に楽しみがない方が嫌よ。
私は心の中でお母さんに反論していると、お母さんはそれを読み取ったかのように言葉を紡いだ。
「別にアニメを見るのが悪いってわけじゃないのよ?ただ・・・」
「そういうところが、オタクは駄目って言ってるのと同じじゃない!!おばさんだって、ジャニーズの追っかけだけどさ、ああいう人たちだって言い換えればジャニーズオタクよ!!AKBだってパフュームだって全部オタクなのよ!!それなのにお母さんはオタクの中でも区別してるのよ!!有りえない。人が何を好きになろうと勝手じゃない!!それをお母さんの価値観で決めないでよ!!あんたは何もわかってないよ!!」
「親に向かって、あんたって何よ!!」
「そっちが悪いのよ。勝手な価値観でそんなこというから!!あんたの価値観を押し付けんな!!」
私はそう言うと、二階へ駆け上がり、自分の部屋へと閉じこもった。
―お母さんが悪いのよ!!オタクの中でもアニメオタクを差別するなんて最低!!というか、もう自分でオタクって認めてるじゃん。もう、意地張るのやめよう。・・・にしても自己中心的な考え方だったなぁー。ま、言ってることは間違ってないけどね。
私は心の中で自分に語りかけながら、窓の外を見た。
もう、外は随分と暗くなっていた。
先ほどまでは月は雲に隠れていたのに、今見ると、空は綺麗に晴れ渡り、月が夜空に映えていた。