玉響 ひとときの空想Time -16ページ目

玉響 ひとときの空想Time

未熟で拙い文章ですが、読んでくださった方、何らかのコメントを頂けると嬉しく思います。

キリンジのエイリアンズを聴いていて、ふと浮かんできた事をしつこくを聴きながら書いてみたものです。2013/11/27 の事です。
覚えてないですが、夜中に1時間くらいで書いたようです・・・。
過去のメインのブログのコメントに自分で書いていました・・・。
メインブログでアメ限で公開していましたが、思い出してちょろっとお話した人がいたので、こっちに公開してみました。暇でしたら読んでみてください。
文章の細かい部分を見直して、ラストをアメ限公開したときとは少しだけ違う文章にしました。
そこに気づくのは・・・前読んでくれたあの方くらいかな?(笑)

タイトルは思いつかなかったので曲のタイトルのまま使わせてもらいました。

原稿用紙9~10枚程度らしいです。






エイリアンズ





 僕は泣きそうな気持ちを必死に堪えて笑顔を作って祝福している振りをしていた。

――祝福しなければいけないんだ。

そう思い込むように僕は自分に何度も何度も言い聞かせた。
彼女が僕に微笑んでいる。僕はきごちなく笑顔を作って小さく手を振り声を出さずに彼女に分かるように「お・め・で・と・う」と口を動かした。
彼女は僕の言葉に気づいて小さく頷くと、すぐに新郎の方へ顔を向け幸せそうに二人は微笑み合っていた。

――幸せの絶頂を見せつけられている……。

僕はとてつもない敗北感を食らった気分で、そんな姿を砂を噛むような心地で最高の作り笑いをしながら見ているしかなかった。
何故こんな場所にいなければならないのか…。
披露宴に出席と丸を記した数ヶ月前の自分が情けなく、憎くも思えてならなかった。
何故ここにいるのか。それは自分の意志でそうした事なのに。

 法子とは5年前に僕が経営する派遣会社の面接で初めて出会った。
小柄で華奢な身体で、どちらかといえばおとなしめ、それが第一印象だった。
何を訪ねても小声で、この子は果たしてちゃんと働けるのだろうか、と正直思ったりもした。
以前も同じような派遣で病院の清掃員をしていたと履歴書通りに面接は進んでいく。年長者からの虐めが酷く人間関係に悩んだ末に退職したとの事だった。確かに医療関係の職場は仕事も人間関係もキツイところが多い。
大人しい性格の人は精神的に潰されて辞めてしまうものが多い。

「私、変わりたいんです」

まるで自信を無くしてしまった人間が最期の力を振り絞るような声で言った、法子のその言葉が何故か印象に残った。
今思えば、当時の僕も変わりたいと心の底で願っていたから法子の言葉が印象に残ったのかも知れない。

 僕の経営する派遣会社は主に銀行や市役所などの清掃員の派遣を請け負っていて、たまたま空きの出た銀行の清掃員として法子を派遣する事になった。
病院の清掃よりも決まり事も少ないし、第一危険な汚物を処理することもない。従って、ぐんと楽なはずである。
ほとんど50から60代の口だけが達者なおばちゃんばかりで、使い勝手に頭を悩ましているようなところがあった。そこへ20代半ばの法子が送り込まれたらどうなるのだろうか。
いい方向へ流れることを期待する気持ちが僕にはあった。
法子も前職場に疲れていたのだから給料は落ちるが楽な方へ流れて来たように見受けられたし、配属場所を告げた時、彼女はとても喜んでいた。

「頑張ります」

そう言った法子の表情は初めて会った時よりも数倍明るく見えた。

 若い法子の働きぶりは仕事内容の飲み込みも早く、おばちゃんたちが仕事を押し付けるのも嫌がらず進んで倍の働きもするため、おばちゃんたちからも可愛がられ人間関係も良好に保っているようだった。
昇進試験もすぐにパスして、半年後にはトントン拍子におばちゃんたちを束ねるリーダーになっていた。
そんな法子の姿を僕新鮮に感じ、また快く思った。
いいように科学反応が起こり、職場全体の雰囲気も良くなった。
世間から見れば、こんな清掃の仕事は大したことのない仕事なのかもしれないが、しかし、ここでの自分に法子は自信を持つようになり表情は日に日に生気を宿し輝いて見えるようになっていった。

 そしていつしか、僕はそんな法子を愛おしくなっていた。

 僕は仕事の打ち合わせだとか、スタッフのスケジュール管理についての話だとか理由を作っては、法子を事務所に呼んで二人の時間を作り徐々に距離を近づけていった。いやらしいやり方だったかもしれないが、こうでもしないと距離を縮めるのは難しいと思っていた。僕にとってはただでさえ難しい事なのに、慎重に近づかなければ。ゆっくり理解を深めてもらわなければ。そういう思いがあった。
けれど、僕は確信していた。時々伏し目がちに送ってくる僕への視線が何を意味しているのか。
その独特な熱を帯びた空気を僕は今までの直感で嗅ぎ分けていたのだ。

そう、法子は僕に気がある。

けれど、それが本物なのかを慎重に嗅ぎ分けなければならない。
間違ってしまっては後々大変なことになってしまう。
違っていたら「冗談」として笑い飛ばせばいいのだろうか。
いや、僕には笑い飛ばせる自信もない。
もう既に笑い飛ばせるくらいな軽い気持ちではなくなってしまっている事を僕自身理解していたのだから。

 その後、何度か仕事を頑張っているご褒美だとして法子を食事に誘った。
流行りのレストランや、Barなどにも行った。
法子は初めて会った時の同じ人物とは思えないほどに、いつも無邪気に笑っていた。
どこへ誘っても法子は躊躇いもせずについて来た。
わざと少し身体を触れると、法子は恥ずかしそうな表情で俯いた。
そんな事の積み重ねで僕の直感は当たっているとますます確信していった。

 そして出会ってから2年が過ぎようとした頃、確信的なあの日が僕達に訪れた。

 二人はその日Barで酷く酔ってしまった。
週末で翌日は休日。
それは、お互いに合図するように意図していた事なのだろう。
店に入る前の真夏の熱気のように、僕と法子は皮膚の周りに空気がねっとりとまとわりついている様な、そんな浮遊感の中にいた。そして送り合う視線も酒のせいで上気し火傷をしそうなほどに熱くなっていた。
あの日、僕たちは酒のせいだと最初から言い訳を作っておいて、「こと」が始まるよりも先に二人は堕ちていたのだと思う。
法子が先にトイレへと席を立って、僕は追いかけた。
個室に入り鍵をかけると、僕は法子の唇を奪った。
初めて深く肌に触れて確信が現実になった。
地球が裂けて二人とも堕ちていく感覚がした。
法子は身体を小刻みに震わせながらも、そうされるのを望んでいたように抗うこともなく僕を受け入れた。
接吻を交わし続けて法子も舌を入れて僕を激しく求めてくる。
僕達はその夜、理性の殻を脱ぎ捨ててゆっくりと何度も溶け合った。

 法子は僕に何度も言った。

「ずっとあなたの傍にいたい」

法子はこうも言った。

「子供のいない生活でもいいわ。あなたが傍にいれば。好きなの、あなたが」

僕は一回りも年の離れた法子の未来をこんな人間が拐ってしまっていいのだろうかと悩んだ。
永遠があるならそこに辿り着いてみたい。
掴める夢ならば掴んでみたい。
けれど、僕にはもう一歩の所で好きな気持ちと同じくらいにどうしようもなく自信がなかった。
法子は魔法のように僕に何度も何度も同じ言葉を投げかけ、僕は魔法にかかってしまっていた。
法子となら永遠に寄り添って行けるのかもしれない。
僕にとって法子という存在は、今まで通り他の女達と一緒で刹那的なものだろうと思っていた。
ただ、一瞬でもお互いの気持ちが寄り添うこと、それだけで奇跡だと思っていた。

「法子は何でそんな事魔法みたいな事言うの?」

「魔法じゃないわ。これが本当の私の正直な気持ちだから。生まれ変わったのよ、私。だからこの気持ち大切にしたいの。魔法なら…掛けられたのは私の方よ。あなたにね」

「僕は疑い深くて、こんな奇跡を信じられないでいるだけなのかも」

「私は、ずっとあなたの傍にいたい。こうしているのが幸せなの。大丈夫よ。上手くいくわ。私たち」

そう言っては法子は僕に優しく口づけをして毎夜少しの涙を見せては眠りに就いていった。

 あの時の法子の言葉は魔法ではなく真実だったに違いない。
どこか遠くに二人で逃げてしまえば良かったのかもしれない。
アメリカ?イギリス?フランス?オランダ?僕たちを受け入れてくれる国などいくらでもあるはずだった。

 ぐずぐずしている僕に嫌気がさしたんだ。
ある日、法子は僕の前から忽然と姿を消した。

法子は僕を置いて、勤務先で知り合った銀行員との結婚を選んだのだった。

 そのことを知ったのは、僕の派遣会社を退職して1年後の事だった。
ポストに結婚式の招待状が届いた。
法子からのものだった。
ただ知らせたかっただけかもしれない。まさか出席するとは思ってなかったかもしれない。
けれど、あの時僕は何も考えずに出席に丸をつけてポストに投函したのだった。

 何故だかよくわからない。既に辞めてしまった派遣社員の結婚式など出席する義務はない。
元カノの結婚式など、どうでもいいはずだ。
けれど、会いたかったのかもしれない。最後に一目だけ。
僕は着飾って化粧もいつもより気合を入れて出かけた。
ショートの髪でも女性らしく見えるように、法子と触れ合った肌も見えるように、胸の谷間が下品にならない程度の露出のある艶のある黒い生地のドレスを選んだ。
そんな事をしたところで法子が僕の元に戻って来る事などないのに。
今、僕の視線は法子を追っている。
法子の視線は僕に無い。
幸せそうに新郎を見つめる法子を見ていると、初めて会った時の法子の言葉が蘇ってくる。

「私、変わりたいんです」

確かに法子は変わった。
けれど、魔法は解けて、元に戻ったのだと悟った。
僕も変わりきれなかった。僕も元に戻っただけなのか。

僕にかけられていた

「ずっとあなたの傍にいたい」

と言う魔法の言葉も、今日の法子の幸せそうな顔で解けて消えて無くなって行くのが分かった。


僕はまた完全に一人になってしまったのだ。
丁度今新郎からのスピーチを聞きながら法子は涙していた。
たまらなく虚しくて寂しさがこみ上げてきて泣きたくなった。
そんな僕の顔は感極まって泣き出しそうな顔に見られていただろうか。
マイノリティーの僕は、この街にうまく擬態して溶け込めているのだろうか。
僕の目の前に置かれた「河井陽子様」と書かれたネームプレートを見つめながらそう思った。

 確かに僕と法子との間には一瞬の光があった。どうしようもなく好きだった気持ちだけが宇宙に漂って膨張して行くようだ。それはいつしか思い出の濃度も薄れて消えていく事に似ている。この先僕は何度そんな思いを繰り返すのだろう。
僕は、いや私は、披露宴会場の幸せな空気をよそに、いつもと同じことだと自分に言い聞かせるように、一人窓の外の晴れ渡る秋の空を暫く見つめていた。









この曲はキリンジの曲の中では有名な曲ですね。

この10thライブのものが個人的にとても好きです。


書く前にブログでごちゃごちゃ考えていたように、他のパターンの話も書けそうな感じでした。
もっと悲しくて寂しくてどうしもようもない感じの話の方がこの曲には似合いそうな気もします。