もう何年も前だけど
あれは確か今日みたいに
朝から雨が降る日だった。

その日は朝のオペレーターが不在でおれが出勤する事になってたから
小雨の中チャリ走らせて駅へ向かったんだ。

その日は月曜日。
放置自転車が一斉に撤去される日だったから
おれは仕方なく、社会のルールに従って
駐輪場にチャリを止めた。

駐輪場のおじさんが気さくに挨拶してくれた。

「おはようございます」

おれも小声で返す

「おはようございます」

駅前の駐輪場は一日100円かかる。

財布から100円を出し気さくなおじさんへ渡した。

その時、財布の中が空っぽなのに気付いた。

でも時間もなかったから急いで駅へ向かい電車に飛び乗った。







朝の満員電車に揺られ渋谷に到着。

まだ止まない雨の中、コンビニへ寄ってしまった、財布にお金ないのに。

満員電車のストレスからか、財布の中にお金がない事などすっかり忘れ、パンとコーヒーを手に取ってレジへ向かった。

ピッ

「240円です」

その時やっと思い出した。

無言で財布の中を調べまくるおれ。

店員からはまだかまだかと言わんばかりのオーラを感じる。



「…すいません、下ろして来ていいすか?」


「え?あ、はい」

こいつ240円もねーのかよって絶対思われた。間違いなく思われた。

厄日だぜ…と思いながら店内のATMにキャッシュカードをぶち込んでやったんだ。
そしたらあら不思議!キャッシュカードが返って来た!






「只今の時間はご利用できません」





ファック!!!!!営業時間外ファック!!!!どーすんだよ!!!!

財布の中をもう一回確認した。

93円。

認めざるをえない今のおれの価値

93円。

現実って何て残酷!

このままレジに戻って「やっぱりいいです」って言って店を出ればおれの負け!!!

あの店員は休憩中に他のバイトに言いふらす!!!今朝240円も持ってないやつが来たと!!金下ろすとか言ったくせに結局何も買わずに帰ったと!!!見栄を張ったんだと!!!傘もささずにトボトボ帰ったと!!!!

負けられない!!!!この93円であの店員のバカにしたような視線を覆さなければ!!!!おれはこのコンビニを出られない!!!



何かいい手はないか?



巡らせる!!思考を巡らせる!!!浅はかな自尊心を守る為に!!!!どうすれば!!!どうすれば!!!!どうすれば!!!



そして見えた!!!光明!!!!!


88円の値札の上に置かれた菓子パンを!!!!


光明!!!!光明!!!光明!!!!!!!!!!

漆黒の闇を斬り裂く一筋の




光明!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



紡ぎだされるストーリー!!!!

「ぼくやっぱりこの菓子パンが食べたかったんだぁ~」的な!!!!

ごくごく自然な!!!!

見せかけの心変わり!!!!!

金がないんじゃない!!!!気が変わったんだと!!!!

覆せる!!!!あの視線!!!!!





「あ、やっぱりこっちにしてもらっていいですか?」

「え?あ、はい」

ピッ

握りしめた93円を!!!!ここで!!!!!叩き…


「105円です」

「え?」






絶望!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

なんとこの菓子パンは88円じゃなかった!!!!!!!!!

あの値札は違う菓子パンのものだった!!!!!!!!!


フェイク!!!!!!!

裏の裏をかいた!!!!

あまりにも原始的な!!!!

フェイク!!!!!!!!!!!!!!!!!

フェイク!!!!!!!!!!!!!!!!!

湧き上がる屈辱!!!!!!!!!!


一気に噴き出る冷や汗!!!!!!!

敗北!!!!完膚なきまでの!!!!敗北!!!!!!

小説よりも奇なる事実!!!!!!!

あまりにも受け入れがたい事実!!!!!



「…あの、すいません…やっぱり全部いいです…」

「…え?あ、はい。ありがとうございましたー。」



けだるそうな店員の声は今でも僕の耳から離れない。