※ ミズサカ 同棲パロ 年齢操作注意 ※
今日から、君と。
うっすらと開いた瞼に、滔々と朝の光が降っていた。
寝起きのぼんやりとした頭で、いま何時だろうと時計に目を向けたが、いつもあるべき場所に時計が、ない。
それどころか部屋の間取りも、いや部屋ごと……、
( あ、そうだ )
やっと重要なことを思い出し、ほっと胸を撫で下ろすと、(確か)キッチンの辺りから勇人の鼻唄が聞こえてきた。
( 昨日から、一緒に暮らしてるんだっけ… )
下の階にあるキッチンにゆっくりと降りて、声のする方を覗くと、勇人が料理を作りながら鼻歌を唄っていた。
キシリと鳴った音のせいなのか、それとも熱唱する姿に溢した笑いが届いたのか、ふつりと歌声が途切れて、勇人がくるりとこちらに振り返った。
「おはよ、水谷!」
振り向いたそれは、花の綻ぶような笑顔。
「……はよ、」
無性に抱き締めたくなったことは内緒で、良い匂いの漂っている鍋に歩み寄る。
「やっと起きたなー遅いぞー」
「引っ越しの次の日なのに……勇人何でそんなに元気なの?」
「ははっ、わかんない」
そう言ってまた笑いながら、鍋の中で煮える味噌汁を掬う。
「はい、味見して」
「ん、」
「……」
「もうちょい濃いほうがいい」
「はいはい、わかった」
くるくると手を動かしているその背に、覆い被さるように手を回す。ちょうど首の辺りに顔をして寄せると、ふわり、勇人の香りがした。
こうやっていることがあんまり心地良くて、1度はっきりと覚めたはずの目がまた落ちかけそうになる。
ぼんやりとした頭に、ぐつぐつと味噌汁の煮たつ音だけが聞こえた。
「――水谷…、」
「ぅん…?」
「…っ、腕…離せって…、もうすぐ出来るんだから座って待てよ」
閉じていた目を開くと、すぐ目の前にある勇人のうなじが、うっすらと紅く染まっていた。
「――やだ」
「へ?」
「俺、勇人食べるし」
「な、…っ、あ!」
ちゅ、とわざと音を出して首元にキスを落とす。
「あ…、はっ…ぁ、」
そこに歯を立てると体を小さく震わせながら声を我慢する勇人が可愛くて、眠気がなければ止められなくなりそうだった。
「ばか!危ないから、やめろって…ば…っ」
「優しーね、勇人は」
ふ、とひとつ笑みを見せて、今度は無防備な耳を舌で撫でるように伝ってゆく。
勇人の、特別弱いところ。
「――~…!」
つい…、
「…ふ、あ…こらっ…」
「んー?」
「ソコっ…、」
「なに…?」
言いたいことは分かってるのに。気付かないふり。もうすこし楽しませてよ。
「弱いの知って、るくせに…」
もちろん。
「知ってるよ?昨日の夜だって…、ソコやだって啼いてたしね?」
「それと、勇人は耳の中も好き」
くちゅり、鼓膜に響くように舐め、耳朶を柔らかく噛むと、勇人の体が弾かれたように跳ねた。
「…あ…っ、!」
PiPiPi...
PiPiPi...!
「ぅ、わっ!」
「びびった……」
壁に掛けられたタイマーが急に鳴り始めて、思わず回していた腕を離してしまう。今がチャンスとばかりにするりと体をタイマーのほうに滑らせた勇人が、
「タイマー…鳴ったからはもう煮えたし…」
「へー、もっとして欲しかったのにねえ?」
「ッ、るさい!もう座っとけよ!」
顔、真っ赤にしてそんなこと言われたって、ちっとも怖くないのに。言いかけた言葉は飲み込んで、はいはい、と適当な相槌を打ちながらテーブルに着いた。
( ったく…何なんだ水谷は…… )
きっと端から見たら真っ赤であろう頬を押さえながら、テーブルに向かう水谷をちらりと見る。
大きく開いた窓に、若草色のカーテンが揺れる。次々に流れ込んでくる朝日に水谷の明るい髪の色が光って、とても綺麗だ。
( これから、ずっとこんなふうに朝を迎えられたら、 )
自分はなんて幸せなんだろう。
水谷との付き合いは長い。
初めて会ったときからもう何年目だろう。あの頃、自分と水谷がこんなふうになるなんて考えても見なかった。
いつか、水谷が相談してきたことがある。西浦のメンバーとしての自分のこと。
下手な自分がこのまま自分がメンバーとして野球続けてて良いのか、なんて悩み。
でも、なに馬鹿なこと言ってんだ、と、簡単に言えなかった。
柄にもなく真剣に悩んでいたあいつに困惑した俺には、どれだけ考えても気の利いた答えは出てこなかった。
それでも、ただひとつ確かにある、水谷と一緒にいたいと思う気持ちだけは伝えた。
『…俺さぁ…、』
『お前の隣が好きだよ』
『え…?』
そのときの、不思議そうに俺を見詰める水谷が、あんまり可愛くて。あんまり愛しくて。
『水谷と、あいつら皆と、最期までずっと一緒に野球がしたいんだ』
そう言った瞬間から恋に落ちてゆく。
俺がお前を好きなことが、届けと願いながら手のひらを掴んだ。
伏せた目を上げると、水谷がすこし驚いた顔をして、その後ふわりと笑った。
あとすこし。
もうすこし。
この想いが、お前に届くまで。
「あ、」
「さんきゅ、ご飯入れててくれたんだ」
テーブルの中央に味噌汁の入った鍋を置いて、勇人も自分の向かいに座る。
そしてふたりして、ぼんやりと。庭を動き回る小鳥を眺めた。
庭の花壇の周りをくるくると回る2匹を見ながら、改めて感じる。
今日から、
「「一緒に暮らしてくんだな…」」
「「……は?」」
ぱちくりと開いた目でお互いを見る。
可笑しさが一気に押し上げてきて、どちらかともなく声をあげて笑い出した。
「真似すんなよなー!」
「そっちだろー」
幸せだと思う。きっと、世界でいちばん。
カーテンを揺らす風の音と一緒に、小鳥の鳴き声が遠くで聞こえた。
「なあ、続き。歌ってよ」
「え?」
「さっきの歌。サビのとこ」
「改めて言われると恥ずかしい…」
「ははっ、なんだそれ」
途端に恥ずかしそうに顔を俯かせた勇人を見ながら、確かに照れる歌詞かもな、とひとり考えた。
「勇人、」
「ん?」
「好きだよ」
「またお前はさらっとそういうこと…!」
「あは、いーじゃん」
この先もずっと隣に君がいてくれますように。
栄口は照れるとか言っていつまでも苗字呼びだと可愛いなとおもいます^////^
