「君に見せたい景色がある!」

そう言って北海道へ来た。
「荒涼たる海岸が草に覆われている。そこの崖っぷちに野生馬がいるんだ。」

君は、
「私の思い描いていた通りの景色だわ。」
と言った。

君の好きなスコットランドの海岸に似ている景色。
それは「厚岸海岸」のことだった。


海が見えてきた。
しかし、思っていた景色と違う。

普通の漁港にしか見えない。

橋を渡って、岬の先を目指して走り回った。
岬の先っぽまで行って、ようやく見えてきた。

そうだ!あそこに違いない。
そう思って、さらに車を走らせた。

通る車も、歩く人もいない、崖の上にたどり着いた。
二人で車を降りて、柵をまたいで、崖の先へ歩き始めた。

崖を覆っている草は、まだ枯れていた。
遠くには、やや大きめの野生動物の頭蓋骨が見えた。
荒涼たる世界。
崖っぷちには、貧弱な柵がある。
5月にしては冷たい風が吹き荒れ、吹き飛ばされそうだ。

君は道中で買った上着をきちんと着込んだ。
桜を追い越して、冬に戻ったようだった。

風に吹き飛ばされないように、一歩一歩、踏みしめながら歩いた。
柵まで来ると、足がすくんだ。
ぼくは、恐る恐る歩いていた。
君は、平気そうにスタスタと崖っぷちまで歩いていく。

「馬は、いないね。」
「夏になったら、放牧されるのかな。」
そんなことを言いながら、歩いていた。

足元のふきのとうだけだ、生命を感じさせてくれた。

車にもどって、もう少し先へ行くと、遊歩道があった。
「あそこに行けば、岬の崖の先端まで歩いて行けそうだよ。」

道路沿いに車を停めて歩き出した。

遊歩道は、絶壁の先まで続いている。

ぼくは、怖がっていたが、
君は、どうしても先端まで行かないと満足できないみたいだった。

岬の先は、海しか見えない。
丸い水平線が見える。
水平線の上を船が通るのだろうか?

二人の影が、見える。
眼の中にある景色の中に、
ぼくと君しかいないんだね。

地球の上に二人だけしか存在しないような気がした。

崖の上から海を覗き込んだが、
もう何も怖くなかった。


ここに来なければならなかった。
ここが目的地だったんだ。
だけど、ここが出発点になる。
ぼくと君の出発点なんだ。

ここから二人の新しい旅が始まる。
この道を、どこまでも、
二人で一緒に歩いて行こう。

LOOKING FOR JAPAN!
ぼくたちは、やっと何かを見つけたような気がした。