三
「やっぱり、こんなシステム、間違ってるよ。」
「相手に、大義名分を求めちゃダメってことなのかしらね…。
こんなの政治犯を捕まえてるような気分だわ。」
僕と爽華はイライラしながら歩く。
僕たちは繁華街を抜けて、住宅街へと入っていた。
「そういえば、小暮君、あなたやけに戦い慣れてるみたいじゃない?
スナイパーがどうこうとか、どうして知ってたの?」
そういえば、考えもしなかったがその通りだ。
「それがどうも僕にもわからないんだ。もしかしたらこれも、
ステータスって奴の影響かもしれない。」
いや、このことに関しては僕は引っかかっていることがあるのだ。
銃のステータス詳細を僕は日々確かめていたんだが、毎日少しずつ数値が上昇していた。この三週間、一日も欠かさず、である。
「ふーん。じゃあ私のステータスの上がってない部分が小暮君には
上がってたってところかしら?」
「まぁ、多分、そうなるんだが。そもそも、なんでステータスが
上がっているのかがわからないんだ。ほら、結局僕たちはゲーム
世界へは行けてないわけだろ?なら、ステータスだって上がるはず
ないのに。」
「そうね…。なら、私たちの代わりに誰かがゲームでステータスを
上げているとか?」
その考え方が一番妥当だが、一体何の為なんだ。
自分以外のステータスを上げて何が面白い?
「うーん。わからん。」
「小暮君、頭弱いわね。」
「うるさいな、お前も同んなじだろ?」
「私は関係ないわよ、あなたという下僕の考えを使って動くん
だから。」
「それって、傀儡になってるのは結局お前だぞ?」
論破したのに、足を踏まれた。
「何よ、小暮君のくせに生意気ね。ぶん殴って上げましょうか?」
ぶん殴るも何も足を既に踏まれてる。
「それ、何処かの某Gさんだからこれ以上やめてくれ。」
「どうせ、小暮君はブルーな誰かを呼ぶんでしょ?」
「ギリギリだから、もうやめろ…。」
僕はきっと秘密な何かに頼ったりはしない。あんなこととか別に、
全然いいとか思ってないし。できないし。
「まぁ、それはともかくこれ以上小暮君と喋ると穢れるわ。はぁ。
汚らしい、汚らしい。」
「まるで、爽華とは思えない発言なのに、発声源は爽華なんだから
すごく複雑な心境だ。」
多分、爽華はそういいつつ、イライラから気をそらす為に気を使ってくれていたに違いない。だって爽華はそういう奴だから。
あたりは遂に夕暮れに差し掛かっていた。まぁ、あの拷問部屋に、
やっと解放されたのが三時ごろだったし、まぁ、当然かもしれない。
「あれ?あの人って…?」
「あぁ、遠山だな。最初の兵器化の時の。アイツ、大丈夫なのか?」
そう、もちろん僕だってそうだが、彼は目の前で、仲間とやらが
死んで行くのを見たはずだ。僕は、元から酷い仕打ちに慣れていたが
彼は、それから今までずっと逃げてきた。きっと精神的な不安は、
きっと僕よりも大きいはずだ。
「そうそう。あれ?彼って彼女いたの?」
ちょっと不思議そうに見ているが、爽華、それは失礼だからな?
「わかんね。ちょっと声かけてみるか。」
そして、僕たちは彼の方へ向かって歩いて行った。
「おい、遠山?」
「ひっ、あ、あぁ。こ、小暮。久しぶり、だな。」
「あぁ。まぁな。遠山どうしてこんなところに。」
「カウンセリング、だそうだよ。ねぇちゃんが、臨床心理士だから
そのプログラムを受けてるんだ。」
なるほどな。カウンセリングを受けなければならないのも頷ける。
「あなたが、小暮君ね?弟がいつもお世話になってます。話を聞くと
私の弟があなたに迷惑を掛けたみたいね。私からも謝っておくわ。
ごめんなさい。ほら、アンタもよ。」
いいお姉さんだ。きっと彼女なら遠山を癒してくれるに違いない。
「わ、悪かった、小暮。どんな理由があろうとやっちゃいけないのは
分かってたんだ。本当に、ごめん。」
巻き込まれる側の人間。
その点で僕たちは非常によく似ていた。
染まるか、染まらないか。僕たちの違いは多分そこだけだった。
「いや、とんでもないよ。お前が反省しているのなら俺は許そう。」
「小暮君、いいの?あなた、聞いた話じゃ…。」
爽華は反射的にそう聞いた。
「構わない。それに怒るにしてもコイツはお門違いなんだ。」
それを聞くと、彼女は黙ってしまった。
「すまない。本当にありがとう。」
それに、彼はきっとアイツらとは違う道を歩けるはずなんだ。
そうして、彼らに適当に挨拶した後に業務へと戻った。
「本当に良かったの?あなた、とても酷いことされたんでしょう?
それに、その、私を庇ったっというか、なんというか…。とにかく
嫌なことをされたんでしょ!」
ものすごい勢いの彼女に若干引きつつ、僕は言う。
「ま、まぁな。でもイジメの主犯格はあの兵器化した暴走人間に
無茶苦茶に殺されてる。今更、怒りをぶつけるにしたって的が
ないのさ。」
僕たちは、なぜか懐かしい夕焼けの中を二人で歩いた。
商店街に入っていた。
「中学の頃は、爽華とも普通に二人で帰ってたんだ。なんか、
懐かしいな。」
「えぇ…。それ、まるで私たちが付き合ってたみたいじゃないの。
なんで、コイツなのよ、全然タイプじゃないのに…!過去の私の
感性が全然わからないわ…。」
「愚痴を言うのは全然構わないんだが、できれば俺の見えないところ
で言ってもらえないか?」
「じゃあ、誰にこの愚痴を聞いて貰えって言うのよ。」
「少なくともストレスの原因である僕ではない人だ。」
コイツ、なかなか酷いことを言ってくれやがる。
はぁ。俺の代わりにステータス上げをやってくれてる奴がいるの
なら、是非容姿にステータスを振って欲しい。
「ふーん。せっかくこの可愛い私があなたしか頼りにならないの!
って言ってあげてるのに。」
「その頼みが俺に対する愚痴で無ければ、喜んで聞いてやったところ
だけどな。というか、お前謙虚もクソもないよな。」
「何よ、不満?どうせアンタも否定出来ないんでしょ?」
「否定はしないが、ムカつくな。いくら外見がいいからって、こんな
酷い性格なら俺だって願い下げだよ。」
「ふん、世の中外見が全てなんだから。」
「おい、お前、多分人類の中で、なかなかのウェイトを占める人たち
を敵に回したぞ。」
「別にいいじゃない、どうせ今じゃ、あの銃使ってなんでもし放題
なんでしょ?」
まぁ、確かにそうだ。だけど…。
「まぁ、別にお前が誰の敵になろうと勝手だがな、他人の気持ち
ぐらいは考えろ。みっともないぞ。」
「ふんだ。知らないわよ。あんたは私の親か何かなの?」
「なんだよ、その言い方は?」
その後、爽華は俺と口をきいてくれなかった。
なんだよ、コイツ拗ねたのか?
はぁ。全く。
そのまま、商店街を抜けて行こうとした、その時だった。
そして、ちょっとご機嫌斜めな爽華ちゃんと、僕が見たのは、
「ちょ、あれって。」
「あぁ、多分兵器さんだよ。」
僕たちは、走った。
それはもう全力で。
よく見ると、向こうには血が撒き散らされていた。
二人の頭が、血に沈んでいた。
「う、うぁ、な、何するんだよ!?た、助けてくれ!?」
間に合うか?
そこまで、30メートルはあった。
しかし、どれだけスピードが速くたって。
「うぁ、うぁぁぁぁぁぁ!?」
まさに、首を握りつぶされている人を助けるには。
「この。」
銃を撃ったとしても。
その銃弾は、敵の腕に突き刺さっても。
「ああぁぁぁぁぁぁぁ…………。」
間に合わない。
ぐしゃり。
という音が響いた。
それを、人の首が、体から分離させられる音だと認識するのに、僕は、一秒も使ってしまった。
即死。
その言葉がこの場面にはピッタリだろう。
「ちくしょう。間に合わなかったか…。」
しかし、これ以上の被害を出すわけにはいかない。
そう切り替えて、銃弾を何発も放った。だが、当たらない。
「当たってない!?小暮君、どう言うこと!?」
爽華も、人がもういなくなった為に思い切った発砲踏み切った
のだろう。だがしかし、彼女も僕と同じ感想を持ったらしい。
「わからない。」
銃弾がすり抜けた。
何故だか、理解ができない。
ただ。
「そうだ、この銃も、あの兵器化人間も、同じ犯罪者が作ったんだ。
銃弾が当たらなくなったって、不思議ではない。」
この期に及んで、設定でも変えたのだろうか。
なら、もうこの銃は役に立たないじゃないか。
そう考えた、直後だった。
僕も爽華も、予想だにしない動きを兵器は始めた。
その手の拳銃を、自らのこめかみに当てて、放ったのだ。
バァァァァァンッッッ!!!!!!
大きな音が響いたと思うと、兵器化が一気に解除された。
青い光が、彼を包む。
「なっ!?」
そして、彼の右手に白い拳銃が再び現れた。
そのまま、彼は自分のこめかみにそれを当てて、
放った。
なんだこれは。
ふらり、と。
その男は、立ち上がると何事も無かったかのように、その場を立ち
去ろうとした。
「ちょっと、待ってください。」
僕は、我に返って彼に声をかける。
ただし、返事はない。僕は、彼を追いかけるべく、足を進めよう
とした、その時だった。
「うん。まぁ、三人が限界だったかな。それでもシステムはクラック
出来たか。」
全く気づかなかった。
声を聞くまでは。
「お前は…。」
「あぁ、ご無沙汰しているね。小暮裕也に清水爽華。」
スーツ姿の彼は適当な挨拶をしてそこに立っていた。
「御影、だったか。」
「あぁ、嬉しいな、名前を覚えてくれていたなんて。」
「小暮君、この人は?」
爽華が、不安げに聞く。
「お前を誑かして自殺させた上に、僕もコイツに自殺させられかけた
んだよ。」
「誑かしただなんて、人聞きが悪いな。私は新しい世界を提示したに
過ぎない。」
「ふざけるな…。お前を僕は許さない。」
僕は、そいつを睨みつけた。
「怖い怖い。まぁ、いい。私は少し忙しいんだ。奏崎の奴が見事に
やらかしてくれたからね。兵器化の退治は頼んだよ。」
彼はそう言うと、僕たちに背を向けた。
「おい、待て。」
僕は彼に銃を向ける。
「幸運を祈るよ。権限6発動。」
僕は、迷わずに引き金を引いた。
だが、彼は直前に消えた。
「何、あれ?」
「わからない。」
虚空を僕は見て、拳を握りしめていた。
