貧困・困窮者対策とワンストップ・サービス・デイについて | 第6の権力 logic starの逆説

貧困・困窮者対策とワンストップ・サービス・デイについて

昨年「派遣村」が話題になったが、派遣村の村長をつとめた湯浅誠さんが内閣府参与となりました。

この湯浅さんのインタビューが朝日新聞に記載されていました。

・貧困・困窮者対策として、ハローワークでいろいろな相談を一度に受けられるワンストップ・サービス・ディを実施する。

・本当は、そこで生活保護も受けられるようにしたかったが、相談だけとなった。

という内容の記事でした。


この記事に、自治体の首長が抵抗したので、ワンストップ・サービス・ディで生活保護の手続ができるようにならなかったというトーンが出ていたように感じましたので、少し書いてみたいと思います。


まず、自治体がなぜ生活保護をワンストップ・サービス・ディでおこなうことに否定的だったかといえば、2つ理由があると思います。


ひとつは、湯浅さん自身が別のところで詳しく書いているように、住所がない方については、事実上、最初で受け付けたところで対応せざるをえないということです。

したがって、ワンストップ・サービス・ディの場で受け付けてしまったら、他の自治体で職と仕事を失った人でも、その自治体の住民の支払う税金で対応をしなければならないということです。

湯浅さんは、雇用は流動化しており、こうした方は自治体の税金で対応するのに限界があり、全額国費という制度設計も考える必要がある、とコメントしています。

また、湯浅さんは、たとえば昨年生活保護窓口への来訪者が急激に増えた名古屋市では、生活保護の窓口に来た人の半分は市外から来て、4分の1は県外から来ており、そうした懸念をするのはわかる、ということも発言しています。


しかし、これよりも、もう一つの理由のほうが大きいと思います。

それは、ハローワークは自治体単位であるわけではない、ということです。

A町の職員がハローワークに出て行って、生活保護の相談を受けても、隣のB市に住民票のある人が来た場合には、法律上、生活保護を受け付けるわけにはいかないのです。

したがって、ハローワークで、生活保護をすべて受けるということは、そもそも無理だったのです。

自治体の抵抗とか、そういったレベルの話ではありません。

本当に生活保護の受付までしようとするなら、ハローワークではなく、自治体の窓口でやるしかありません。


昨年、先ほどの湯浅さんのコメントにもあったように 名古屋市には、市の生活保護の窓口である福祉事務所に仕事と住まいを失った方が大量に来たために、当時の名古屋市長によれば、ハローワークの職員に福祉事務所に来てほしいと言ったが、来てくれなかったとのことでした。

その場で生活保護を受け付けるのであれば、市町村の窓口に集約するのが一番であるはずですが、ワンストップ・サービス・ディは、厚生労働省の窓口であるハローワークでおこなうことになっています。

職員を派遣をするほうが負担が大きく、職員の派遣を受けるほうはむしろ助かるということは、明らかだろうと思います。


また、自治体側は、何年の前から、「生活保護自体は全額国費でおこなうべきであり、働ける人と、働けない人とを区分して、雇用行政と一体化した制度に抜本的に改正すべきだ」ということも主張していますが、厚生労働省はその主張を受け入れていません。


さらに、比較的大きな都市は、自治体窓口で職業紹介業務を行うことを前提に権限と財源を移譲するよう主張しています。それが実現すれば、あえてワンストップ・サービス・ディをつくらなくとも、常に、ワンストップになりますが、厚生労働省は権限と財源を地方に移譲することに、強く抵抗をしています。


こうした状況をみれば、自治体の首長の抵抗といったり、自治体を悪者にするかのような報道は一方的であると考えます。

先に引用したとおり、湯浅さんの発言は公平であり、こうした報道は新聞サイドの意向か、取材不足によるものではないかと思います。