派遣労働は女性の問題か
派遣労働者の雇い止めが話題になっています。
この話題自体については、後日、書いてみたいと思いますが、その前提として、派遣労働者一般について、少し書いてみたいと思います。
派遣労働者というと、女性のイメージをもたれる方も多いと思います。
男女共同参画の文献では、統計を根拠に、正社員の女性が減って、派遣で働く女性が増えたとして、女性問題として派遣労働が語られることもしばしばあります。男性は正社員で、女性は派遣社員であって、賃金等の差別がある、ということです。
しかし、統計は、しばしば都合のよいように使われます。
先に結論を決めておいて、その結論に都合のよい数字を統計からひっぱってくるわけです。
学術的な文献であれば、本来はそうした可能性は低いはずですが、実は、学術も、学者がその学術分野を選択したという場合に、なんらかの政治的・政策的な主張がしたいと思って選択をしていることがあります。その時点ですでにバイアスがかかっていることもあるのです。
実際に、誰かが整理したパーセントや割合ではなく、客観的な数字だけをみていくと、派遣を含む非正規労働者は年々増えています。
それでは、その分、正社員が減っているかどうかということを見てみると、ここ10年はたしかに減っています。
それを男女別にみてみると、女性の正社員は、戦後一貫して増え続けています。それが、10年ほど前に頭打ちになりました。数年前から少し減っていますが、現時点では、まだ減少傾向にあると明言することはできません。
他方、女性の非正規労働者は、10年ほど前から増え続けています。
すなわち、10年前までの傾向は女性の正社員が増え続けている、10年前からは女性の正社員の増加は止まり女性の非正規労働が増えている、ということです。
女性の正社員は減っておらず、これまで労働者ではなかった女性が、非正規労働者になったのです。
(しかしパーセントで書くと、働く女性のなかで、正社員の割合が減り、非正規労働の割合が高くなったと書けるわけです。)
他方、10年前から、男性の正社員は明らかに減り、男性の非正規労働者は増えています。
トータルとして、企業が労働者に提供する仕事量や賃金はそれほど変わっていません。
結論として、これまで働いていなかった女性が、派遣などの非正規労働で働くようになり、その分、男性の正社員の仕事がなくなって、男性も非正規労働で働くようになった、ということです。逆の言い方をすれば、男性の正社員を非正規雇用に切り替えたために、女性が非正規雇用で働く余地が生まれた、ということになります。
絶対数や割合からみれば派遣など非正規労働は女性の問題ですが、歴史的に見れば非正社員化は男性の問題なのです。
ここ10年、女性の正社員は増えておらず、男性の正社員は減っているのですから、正社員自体は減っています。
男女に限らず、非正規労働者が増えています。
夫が正社員で、妻が非正規雇用というイメージで捉えるべきではありません。
さらに、核家族化、世帯の細分化が進んでいます。
すでに、「一家に一人は正社員」という時代ではない、ということが見えてきます。
それでも、正社員の雇用確保を第一にする従来の労働政策を続けるのがよいのでしょうか。
そこまで考えるべき問題だと思います。