「ふむ、なかなか将来が楽しみだな・・」
拓斗はキョーコの演技する姿を見ながらそんなことをつぶやいた。
役により演技が違うだけでなく年齢も雰囲気も容姿さえも別人だった。
そこに全くと言ってよいほど「最上キョーコ」は存在しない。いや、女優「京子」すら気配を感じなかった。


確かに敦賀蓮は素晴らしい役者だ・・
だが、だれが見ても彼は「敦賀蓮」なんだよな・・・・


将来を有望視できる2人を思い浮かべながら、先ほどの控室での一件を思いかえしていた。


コーヒーを飲みながら拓斗は面白いものでも見るように、じっと蓮を観察していた。
普段とは違う雰囲気
おそらく彼なりの独占欲と嫉妬心なのだろう


日本一抱かれたい男の称号を持っている男がまさか自分の担当するタレントにぞっこんだとは・・・・


しかもそのマネージャーの社さんも明らかに応援する体制だった
もしかして、事務所内では暗黙の了解なのかと思いそれとなく聞き込みをしてみたが、誰一人それらしい返答をしてくれなかった。


・・・・どういう関係だ?
キョーコもまんざらでもなさそうだし・・・・


あの変な部署名・・らぶみーぶ? に所属するぐらいだから、愛において何か問題があるようだし、社長は簡単に説明をしてくれたが、今のところを問題があるようにはみえなかった・・・・それに京子にとって敦賀蓮は最高のパートナーになるような気さえした。


・・しかし、京子のやつ・・今はよくても、この先これじゃスランプになるな・・


キョーコの欠点をメモに取り、今後のプランを考える。
これほど先の楽しみなタレントを任されたことに拓斗は嬉しさを隠せなかった。社長も「楽しみにしている1人だ・・」と言っていたのを思い出す
おそらくその中に「敦賀蓮」もいるんだろうな・・



「・・・・さん・・斗さーん?拓斗さん?大丈夫ですか?」


美人な、ねーちゃんだな・・

サラサラの髪を耳にかけながら色っぽい視線を向けられた。


一瞬仕事中であることを忘れて顔をのぞかれて、そんな感想を心の中でつぶやいた後、驚いて姿勢を正した。


「・・お、すまんな京子・・・なんだ休憩か?」
自分が担当しているタレントを客観的に見ることができ、拓斗は笑いをこらえた。考え事に耽って仕事を忘れてしまうとは自分でも初めての体験で驚いていた。


「はい・・ところで拓斗さん・・大丈夫ですか?ずいぶん考え事をしていたようですが・・?」


「・・あぁ、大丈夫だ・・。ところで・・」
拓斗は先ほど演技している様子を見て気が付いたキョーコの欠点を書いたメモを渡した。


「・・・・おまえの欠点だ・・」


事細かに書かれたメモにキョーコは真剣な視線を向けた。


「拓斗さん・・・あの、本当にありがとうございます。こういうの助かります!!!」
いつも以上に元気なキョーコの発言に、あ~、やっぱり中身は京子なんだと嬉しく思う反面がっかりもした。


3割増しに大人美人・・
このまま街に連れて歩けばだれもが振り返るほどの美女だが、中身はまだまだ子供の京子だからな・・。


「あの、先ほどからニヤニヤしているようですが、私の顔・・・・変ですか?」


「ぶははは、いやいや、それは失礼した・・・・違う、違う。その外見と、今の挨拶が雰囲気に合ってなくて笑ったんだよ」
面白いこと言うなよ!と言いながら、拓斗は目から涙を流して笑っていた。


「そ、そんなに笑わないでください・・恥ずかしいじゃないですか・・」
頬を染めて照れたキョーコは、美人な外見をがらりと変えて、可愛らしい笑顔を向けた。


・・・・なるほど・・敦賀蓮は京子のこの素直な心や笑顔に惚れたんだろうな・・クス


「・・・・拓斗さん・・・まだ笑っていますよ?」
キョーコは拓斗をじとーっ、と見つめてからぷくりと頬を膨らます、
そんな姿にお手上げだと言わんばかりに拓斗が椅子から立ち上がった。


「京子・・そういえば、敦賀くんと仲良かったよな?」


「いえ、そんなことはありません!!敦賀さんが私と仲良しだなんて言わないでください!!私は崇拝しているんです!!いわば、神の領域の人なんです!」


「あはは、頼むからその姿でそんな発言しないでくれ、笑いすぎてしまうよ・・それに「仲良しじゃない」なんて、間違っても本人に言うなよ?俺が見た限りでは敦賀くんはおまえと仲良しだと思っている、お前も仲良くしている人に「仲良しじゃない」なんて言われたら嫌だろう?」


「へっ?・・そんなことありませんよ!まさか、敦賀さんが・・たかが後輩のセリフをいちいち気にしたりしません!!そんな器の小さい方ではありませんから・・大丈夫です」
フォローしているんだか、いないんだかわからない発言に大爆笑しそうになりながら、拓斗はキョーコの頭を撫でた。


「さて、行っておいで・・時間のようだぞ?」


スタッフがちょうどキョーコを迎えに来るところだった。元気よく「はい」と返事をして大事そうにメモを握りしめて走り去る。



そんな拓斗とキョーコの様子を少し寂しそうに見つめる視線があることに2人は気が付いていなかった。






もう少し続きますがお付き合いください・・

つづく・・