僕がNano Universeに入社したきっかけは、今となってはふざけたような理由だけど、Nano Universeという字面、響き、そしてその名前をシンプルにして最大限表現した当時のシグネチャーロゴともいえる『10-9』(10のマイナス9乗)のカッコよさでした。
当時駒沢に住んでいてアルバイト先のお台場のアクアシティーまでゆりかもめに乗って通っていたのだけど、どうしても毎月ゆりかもめの定期代が赤字だった。
確か駒沢からお台場までの定期代が2万数千円。
定期代は給料日に振り込まれるのだけど、一番最初に立替て買うこの2万数千円の定期代の分がどうしても毎月ショートして、某赤いカードにお世話になる日々。
もっと定期代の安い近所で働きたいな・・・と思い休日に渋谷の街をプラプラ歩きながら初めて入ったお店が当時タワーレコードの斜向かいにあったナノ・ユニバースの1号店。
なんだこのお店、よく分かんないけど、名前もロゴもカッコいいな・・・
そしてレジ後ろの壁には『アルバイトの販売員募集』の紙が貼ってあった。
名前はカッコいいし、家から3駅の渋谷だから定期代も安いだろうから、ここでアルバイトするか、って履歴書を出した。
当時はナノ・ユニバースどころかファッションのことなんか何も知らなかったので、複数人での最初の面接の際、
『ナノ・ユニバースで扱っているブランドで知っているブランドはありますか?』
と聞かれて
『アーノルドパーマー』
としか答えられなかったのは19年近く経っても覚えている。
この時、他の応募者が皆、口を揃えて『SEC(セック)』の名前を挙げていて、なんなら一人は『SECはもちろんのこと』と言っていたのが印象的だった。
アーノルドパーマーしか知らなかった僕には、『もちろんのこと』ってどういうこと?そんな有名なの?という、頭の中は?マークでいっぱいだった。
志望動機も
『お店の名前と字面が良かったから』
と答えた。
今考えるとよく採用してもらえた。
多分、今なら
『この人、面接なのにふざけてるの?』
と不採用だろう。
創業者のボスがこのNano Universeという名前に込めた意味は恐らく、お世辞にも大きいとは言えない小さな1号店に込めた世界観としての『小さな宇宙』。
Nano Universeを日本語に直訳しろと言われたら『小さな宇宙』『小さな世界』というのが正しいのだろうけれど、僕的に好きな解釈はここに一言付け足した『限られた小さな宇宙』、この解釈、この感覚がとても気に入っている。
例えばオフィスの近くの古物屋さんの店先で、ダンボールの箱に詰めら売られている古本。
僕的にはこれぞまさしく『Nano Universe』。
『限られた小さな宇宙』、まさにこの世界観が堪らなく好きだ。
街の本屋、インターネットのAmazonに飛び込めばそれこそ何千・何万という本が選べるが、この小さなダンボールという宇宙に詰め込まれた約40冊が作る世界観が好きだ。
しかも、この小さな宇宙をよく見るとサリンジャー、コナンドイル、アガサクリスティー、アレクサンドラ・リプリー、江國香織、高倉健、隆慶一郎、筒井道隆、井上靖、藤沢周平、唯川恵、柳田國男、安部公房、そして川端康成。
僕が知ってるだけでもこれだけの壮々たる名前が並ぶセレクション、最高の宇宙だ。
この時は川端康成の『みずうみ』と『雪国』を買った。
20円で本を買えたことより、この限られた小さなダンボールの宇宙を楽しめたことが嬉しかった。
子供時分に遊んだシルバニアファミリー、カブトムシやメダカを入れて飼ってた水槽、家の庭の雑な花壇、選果場の隅に作った秘密基地・・・思い返すとこれまで多くの『小さな宇宙』があって、その世界観を楽しんできたように思う。
つい先日、とある人に聞かれた。
『なぜナノ・ユニバースに入社したの?』
と。
その時に19年前と同じように
『Nano Universeという名前と字面がカッコよく思えたから』
と答えて、なんだか懐かしくなった。
多分、聞いた相手は
『この人、面接なのにふざけてるの?』
と思っただろう。