風呂に入るのが好きです。

 

風呂に入ることよりも、風呂に入って本を読む時間が好きだという方が正確なんだろう。

 

特にこれからの季節、寒い中アツアツの風呂の中での読書は別格だ。

 

風呂に入る際は必ず入浴剤を使う。

 

ただの透明なお湯の中に体を沈めていると、なんだか貧しい気持ちになる。

 

貧しい生活の中でも、せめて気持ちだけでも豊かにありたい。

 

入浴剤にどんな効用があろうが正直そんなものはどうでもいいのだが、『入浴剤を使って風呂に入っている。』という事実が、荒んだ心を少しだけ温めてくれさえすればいい。

 

自宅にて、にごり湯の入浴剤を使えば異性と一緒に風呂に入れる確率が高くなることに気づいたのは、およそ10年ほど前くらいか。

 

中にはにごり湯だろうがなかろうが、風呂の中でお互いの下半身がモロ見えだろうがなかろうが、純粋にナイロンのタオルで力いっぱい背中を洗って欲しいという理由で風呂に一緒に入りたがる女性もいたが、その類の女性は例外だろう。

 

因みに、ナイロンのタオルでゴシゴシと体を洗うのは『ナイロンタオル黒皮症』になる恐れがあり体に良くないらしいが、そんなことはもちろん当時は知らなかったので、親の仇のように力任せに背中を洗ってあげた。

 

それからここ10年ほどは、家には大量のにごり湯の入浴剤をストックされるようになった。

 

家にはまだまだストックがあるのだけれども、少し気分を変えたくてつい先日、『プレミアム』という言葉に惹かれてまた新しくにごり湯の入浴剤を買ってしまった。


 

ミルキーな白濁具合はいいのだが、いかんせん匂いが甘い。

 

水面から湯気として上がってくる蒸気が鼻から入り、脳の中で変な液を垂れ流しているみたいだ。

 

甘いもの好きな自分が甘すぎると思うくらいなので、一般人には相当危険な甘さだろう。

 

早く使い切りたいので所定の量の2倍を湯船に溶かしているせいか、甘え死にそうだ。

 

振り返れば今の家に住みだして、一生懸命にごり湯の入浴剤を買い揃えてきたものの、全くその『効果』が活かせられていない。

 

いつも風呂に入るのは、独り。

 

もう、これ以上にごり湯の入浴剤をストックするのは辞めてもいいのではないか?

 

なんの為に自分は独りにごり湯の風呂に毎晩毎晩入っているのだろう?と思うようになってきた。

 

20年前。

 

好きだった女性に告白したら、『私のことを分かりたかったら、CHARAを聴いて』と言われた。

 

その時分、メロコアしか聴いていなかった自分はCHARAという歌手を知らなかったが、CHARAさんと浅野忠信さん(と思われる男性)が手を繋いでいる如何にもリア充がやりそうな写真のジャケット、『Junior Sweet』というアルバムをすぐに買って何回も何回も繰り返し聴いた。

 

"みんなはいい子だよ、自分はネコだよ"


 

『Junior Sweet』の後は、それまでに出ていたCHARAさんの全てのアルバムを買って、CDが擦り減るくらいに聴き込んだ。

 

正直CHARAさんの歌詞の意味はよく分からなかったけれども、なんとなく彼女の世界観のようなものが分かるようになってきた数ヶ月後、再度会って話をする機会を作ってもらうと、

 

『私、最近もうCHARA聴いてないんだよね。』

 

その後。

 

アメリカに渡ったあともCHARAを聴き、帰国して社会人として働きだしてもCHARAを聴き、香港の蒸し返すような湿気の中でもCHARAを聴き、そして今、駒沢のボロい一軒家のリビングでもCHARAを聴きながら。

 

彼女よりも、自分の方がCHARAの作品を好きになってしまった。

 

結局のところ、今後も独りにごり湯に入り、そしてCHARAを聴いていくんだろう。

 

人生は、諸行無常だ。