そもそも岩村城の岩村駅から長篠城駅までは3時間49分の長旅の予定だった。

なのに私は5時間以上かけて、この駅舎と呼べるか危ういほどの無人駅、長篠城駅に到着した。


豊橋で飯田線に乗り換え、目的地である長篠城のある長篠城駅、その3駅手前の三河東郷駅までの記憶はある。

そして三河東郷を出発したあと、どうやら私は車内でまたもや白目を剥いていたらしい。

私はよく旅先の電車で寝てしまうので、そういう時の対処法は機械的に行えるように訓練されている。

車内で意識が戻った瞬間、旅先の電車で寝てしまった際のルーティーンを始動させる。

初めて訪れる土地でいきなり目を覚まして『ここはどこ?私は誰?』と車窓からの景色を見渡しても、私が私であることは分かるとしても、ここはどこ?を見極めるのは至難の業だ。

なので私は車内で寝て、目が覚めた瞬間にスマホのグーグルマップを開き、現在位置を確認するように訓練されている。

そして、長篠城駅から2駅先まで飛ばされたことを知った。

三河大野駅


周りには何もなかった。

宇宙の始まりのビッグバン、そのビッグバンが起きる以前を彷彿させるような『無』が三河大野駅周辺を支配していた。

これが都市部だったならば『たった2駅』なのだが、ここは愛知の豊橋と長野の辰野を結ぶ単線の飯田線。

飯田線は別名・秘境線。

日本有数の数多くの秘境駅を抱える路線だ。

そんな路線の『たった2駅』のリカバリーに、私は1時間近くを要した。

そして長篠城駅に着いた時の時間からして『今日はこのあと岡崎城まで行くのは時間的に、ムリだ。』と悟った。

長篠城は、駅から10分かからないくらいの距離だった。

そして、そこは何故100名城に選ばれたのか不思議なほど、原っぱだった。



今から444年前、私の愛した武田軍はこの長篠城近くの設楽が原にて織田軍の鉄砲隊に敗れ、武田家滅亡のカウントダウンが始まるのです。