唯川恵さん
僕が唯川さんの名前を知ったのは、東京にきて三年目の…季節は忘れたけど、春にしときましょう。
春か夏…夏かな?
当時僕は同じ年の女性で大好きな人がいたんだけど、いかんせんお金がないからさ、巷の雑誌が謳うカッコいいデートとかやれるはずもなくてさ。
当時、僕が住んでいた近くには、スゴく立派な図書館が出来たばかりで、因みに目黒区なんだけどね、都立大学の近くといえば『はいはいはい…』という人もいるでしょう。
僕は仕事が休みの日には足繁くその図書館に通うか、日雇いのボランティアをするような、そんな味気ない日々を送っていました。
そんな中、その彼女は普段本はあまり読まないみたいだったけど、初めて一緒にその図書館に行った時に『この人の本、読んだことある』と手にしていたのが唯川恵さんの作品でした。
それから僕は僕で好きな本を借りて、彼女は彼女で唯川恵さんの本を借りる、そんなデートを重ねていました。
彼女は普段話す話は正直言って悲しいほど全くつまらないんだけど、本や映画、ドラマとかを分かりやすく要点をかいつまんで話すのがスゴく上手くて、楽しそうに唯川恵さんの作品の内容を教えてくれてたね。
僕はそんな唯川さんの色々な作品の要点を彼女が話してくれるのが好きだった反面、彼女が図書館にある、限りある唯川さんの作品を読み切ってしまったら、この図書館デートに飽きてしまうんじゃないか…と我ながら器の小さい男の考えそうなことを考えていたね、当時は。
そんな唯川恵さん。
彼女の話す要点聞かせで、なんとなく恋愛ものを書く作家さんだとは知ってはいたけど、今日の今日までどんな人なのか全く知らずに生きてきました。
また、唯川恵さんのコトを全く知らずとも、特にコレといった不都合もなく生きてきました。
そんな唯川恵さん。
いつも本屋さんに行く度に目にしては、なんとなく甘酸っぱい記憶…甘酸っぱい?
甘酸っぱい甘酸っぱいって、よく言うけど、甘酸っぱいって、どんな味だ…?
砂糖と酢を混ぜたような感じかな…
ちょっと今から『甘酸っぱい』を確認してきます。