わたしは、しばらく状況が飲み込めずポカーンとしていた。









今日は会社の入社式。











ごくごくフツーの会社に入ったハズなのに、なぜ???






接待課って何??




そもそも接待課なんて存在するの??





そんなことを考えていると、さきほどの美人が近づいてきた。












「神崎さんね。よろしく。わたしは一条 美咲。




あなたと同じ接待課よ。」














そういってニッコリ笑って手をのばしてきた。









わたしは何の気なしにその手をにぎり、握手をした。





「あのー・・・・接待課って何をする課なんですか??」

とわたしが聞くと、一条さんは










「名前の通り、接待をする課よ。











別名、キャバクラ課」

ニヤリとわらって答えた。











キャバクラ課???!!!!







はぁ???











冗談じゃない。わたしはキャバクラ嬢になるために入社したわけではない。











そもそもわたしはキャバクラというものが大嫌いだった。






昔の彼氏がキャバクラ好きだったからである。




彼は幼馴染でいわゆる小金持ちだったが、






「金さえ渡せば何でもしてくれるから。」

というふざけた理由でキャバクラによく行っていた。




お金のためになら何でもする。その神経が信じられなかった。

(※全ての人がそうゆう訳ではありません。念のため・・・)



そして、そんな人達に金を渡してチヤホヤしてもらっている彼はアホだと思った。






もちろん、そんな男とはキッパリ別れた。




彼よりもお金持ち、いわゆるセレブな人たちはキャバクラなどには行かず、

海外へ留学しMBAを取得したり、親の会社や、自分で立ち上げた会社に真面目にとりくんでいたし、

遊ぶ時には、それぞれが経営や、契約しているホテルの部屋などにみんなで集まり、パーティーしたりしていた。





だから、彼のことをとても情けなく思い、一気に冷めた。










もちろんホストも大嫌いである。とにかく水商売をしている人は信用できないので嫌いなのだ。












そんなわたしがキャバクラ??




入社1日目




はやくも退職を決意した・・・・




































スポットライトが集中したステージの中央に、背の高い、痩せ型の若い男が歩み出た。

黒い短髪、涼しい目元、高い鼻、きちんと並んだ白い歯がちらりとみえた。






かっこいぃ・・・



ゲストの芸能人だろうか??






司会者が淡々とした声で言った。

「社長挨拶」











えぇーーーーーー!!!







社長ってこんなに若いの??









会場はざわめいている。やはりみんなも同じことを思っているようだ。














社長と呼ばれた男はにこやかにマイクの前に立っている。








「みなさん、ようこそ我が社へ!!社長の柏木です。今日から僕とみなさんはひとつのチームです。

一緒に頑張りましょう。そして、我が社をますます繁栄させてください。それがみなさんのお給料につながります。」






そういうと、若社長はさっさと会場から立ち去っていった。






そしてまた淡々とした声で

「つづきまして、所属部署発表」









ひとりずつ名前を呼ばれ、辞令が手渡されていく。







「神崎りな。」

私の番だ!!



「はい」

わたしはいったい何課なんだろう・・・・。






渡された辞令をみると、そこには












「情報部接待課」とかかれていた。












接待課・・・・?????????






















わたしは、不思議に思いながらも会場に入り、ボーイに勧められたグラスをとった。




一口飲んで驚いた。





「これ、お酒じゃない!」







いくらなんでも入社式にお酒はありえない。







となりにいる彼女の顔を見ると、やはり驚いた様子で目を見開いている。






そのとき、また誰かに声をかけられた。





「お酒は嫌い??」

高く澄んだ声の女性だった。







色白で背が高く、アップにした巻き髪とシャーベットピンクのドレスががすごく似合っている。





髪の毛と同じ、明るいブラウンのきちんと手入れされた眉に、長いまつげ。







うすいブラウンの大きな瞳はガラス玉のようにキラキラしている。






鼻筋のとおった高い鼻に、赤くてぷるんとしたくちびるの両端は上がっていた。











すごい美人!!





「いえ、お酒は好きですけど・・・・でも入社式でお酒って・・・」





とまどいながら答えると、




「わたしたちにお酒は欠かせないの」



と言うとニッコリわらって、くるりと背を向けさわやかに去っていった。












「きれいなひと・・・・・なにものなんだろう?」と、となりでウットリとしていた彼女が言った。









そんなこと、わたしが知るはずもない。








となりいる彼女がなにものかさえも知らないのだから。



なんとなく、彼女に名前を聞きにくい。




彼女は入社試験で一度きりしか会っていないわたしの事をおぼえてくれていた。





しかし、わたしは彼女の事をおぼえていなかった。







そんな彼女に名前をきくのは失礼な気がしてならないのだ。





しかし、いつまでも知らないままでいるのも、やはり失礼なので自分から名乗ってみることにした。






「そういえば、私達もまだ自己紹介してないよね。わたし、神崎りな。よろしくね」








「よろしくね。わたしは川崎ゆうこ。神崎さん、本当はわたしのこと、おぼえてなかったでしょう?」









・・・バレていた。



「・・・ごめんね、試験の時って緊張してたから。わたし面接官の顔もおぼえていないの」







事実、本当にわたしはおぼえていなかった。








川崎さんはにこやかに笑いながら言った。

「気にしないで。わたし、人の顔と名前をおぼえるのが得意なの。一度きいたら絶対に忘れないのよ」








なんて羨ましい特技!!

そんなすばらしい記憶力があればテストなんて余裕だったろうに。














わたしがそんなくだらない事を考えている間に会場は薄暗くなり、ステージにスポットライトが集中した。

















いよいよ入社式がはじまるのだ。

入社式が行われるのは、大ホール。






会場の案内板にしたがって、指定された場所へむかうと・・・・





















なんと、そこでは立食パーティーが行われている。


















会場を間違えた!




よりによって入社式の日にパーティーなんかしなくても・・・・

















あのまぎらわしい案内板のおかげで初日から遅刻だ。






かなりブルーな気分だ。














その時、誰かに肩をたたかれた。
















「試験の時に会ったよね?」














ふりむくと、たしかに入社試験の時にいた人だ。









真っ白なブラウスと濃紺のリクルートスーツに身をつつみ、黒の真新しいパンプスにをはき、

黒く、長い髪を後ろでひとつに束ねた格好。





うん、たくさんいた。間違いない!!












顔には見覚えが無いが、わたしと同じ新入社員であることは確かだ。





あぁよかった。わたし一人だけが間違えたわけではないらしい。




















「よかった。わたし、会場をまちがえたみたいで・・・あなたも?」










すると、彼女はクスっと笑って、













「間違ってないわよ」と言った。











え?間違ってないの??だってパーティーしてるけど??









わたしが、ポカーンとしていると、













「ほら、みんな入社試験の時に見た顔じゃない」と、また彼女が言った。
















よく見てみると、会場には、豪華なシャンデリアと、上品な薄いピンクと白のストライプの壁紙、豪華な刺繍に彩られた絨毯と、それには似つかわしくない、リクルートスーツ姿の人がたくさんいた。
























なるほど、わたしは間違えたわけではないらしい。

都内某所




わたしは今、とある会社の前にいる。



数年前までは、どこにでもあるようなフツーの会社だった。




不景気の波にあおられ、一時は倒産さえも噂された。・・・が、しかし!!









近年この会社の業績は驚異的なスピードであがってきている。
















いくら日本の景気が回復してきたとはいえ、この異常なほどの成長には誰もが驚きをかくせない。


















わたしはこの春、そんな会社に入社した。

















日本でイチバン有名なオフィス街に自社ビルをかまえ、大きな大理石に彫られた社名はなんとも誇らしげだ。




とても数年前まで倒産が噂されていた三流会社とは思えない。









一体この会社に何がおこったのか??


日産を再生させたカルロス・ゴーンのような人がこの会社にもいるのだろうか??


それとも、政界の黒幕とウラでつながっているのだろうか??











さまざまな疑惑と、初・社会人としての期待を胸にわたしは入社式の会場へと向かった。