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これは昔、ミゲル・コバルビアスが模した、バリ島民垂涎の的、幻のパワーコイン「アルジュナ銭」を、俺が模した画だ。
バリ島の富裕層には共通した趣味がある。いや、趣味という範疇を越えて、宗教の域に入るのかも知れない。
大抵の名士は、石と古銭を蒐集している。
石の最高峰はメラ・デリマ、古銭の最高峰はアルジュナ銭だ。
もしあなたがバリ島に赴き、縁あって王家の主に逢う機会があれば、訊ねてみるといい。
メラ・デリマとアルジュナ銭をお持ちですか?と。
大抵の名士なら「持っている」と答えるだろう。でも、持っているかいないは当人にしか分からない。
持っていないのに、さも当然と言わんばかりの見栄をはっている可能性もある。
王族なのに、メラ・デリマとアルジュナ銭を持っていないのか、と思われたくないからである。



アルジュナ銭の力は強大で、古銭に宿るアルジュナ神が、どんな望みも叶えてくれると信じられている。
なおかつ、持つだけで女性にモテまくるというのだから、欲しがらない男性は居ないのだ。
アルジュナ神がモテモテの美男子だから、アルジュナのついた人も必然的にモテるのだ、というのがその理由だそうな。



メラ・デリマは持っている。
あとはアルジュナ銭だけなのだ。

なかなか俺のもとにはやってきてくれない。
バリ人の友人が、彼の兄を紹介してくれた。いくつもの会社を経営する実業家だ。
実業家は、彼の祭壇に祭られた沢山の石の名品と、古銭の名品の数々を見せてくれた。
「アルジュナ銭は、持っていますか?」
彼は微笑み「ありますよ」と言った。
祭壇の奥に右手を突っ込み、マントラの書かれた黄色い布包みを取り出すと、結び目を解き、中を見せてくれた。
4枚のアルジュナ銭が入っていた。
幻のコインが4枚も!
ダメもとで「ひとつ、譲っていただけますか?」と聞くと、意外にもいいですよ、と快諾してくれた。
「あなたは当家とご縁のある方ですから、値段は2万ドルで結構」



バリ島に行くと、俺も見栄を張り「メラ・デリマとアルジュナ銭を持っている」と言ってしまう口だ。
メラ・デリマは持っているのだから半分は嘘じゃないし、200万円少しを貯金すれば、アルジュナ銭だって自分のもとにやってくるのだから、将来的には持っていると言ってもいいと思う。


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