「神様がいる夜は、なんでも震える。めちゃくちゃ震える」

サヌール、プラ・ダルムと呼ばれる黒い寺の参列から天を仰ぎ見た彼は、月が大気の湿気に乱反射する光線のあたりを指差し、つぶやいた。

「震える?」

大量に供えられた線香の煙に涙を流しながら、俺も月を見上げた。

「震えるって、どういうこと?」

「そうだね、ダンスね」

少し考えて、彼は辿るように言葉を繋げた。

「波があるよ・・・静かなときの波と、お祭りのときの波ね・・・神様が来ると嬉しいから、お祭りやりたいね。人、物、なんでも。世界にあるもの全部。それで、満月の晩に神様が来ると、みんなダンスするね。それって波が高い。たくさん震える・・・満月が終わって神様が帰ると静かになる・・・その時、波は低いね・・・休憩してるのね。波の無い静かな海ね・・・」

月を見上げながら、彼はしばし沈黙し、何かを想っているようだった。

参列が少し前に動き、彼は振り向いて話を続けた。

「人も、騒ぎたいとき、あるでしょ?嬉しくてワーッて騒いで。それ、神様がいるからだよ。騒ぎたくないときは神様は近くにいない、疲れちゃうから・・・普通の日はいつも空から見ている。人間も動物も、機械も木も石もみんな休むね」

善男善女の群れは頭にお供え物を載せ、順繰りに神殿の前に進み出ては祈り、僧侶の振りまく聖水に身も心も清められる。

掌を僧侶の前に差し出すと、聖水を注いでくれた。俺たちはそれを三度飲み干した。

「あのね、日本も同じだよ。お祭りの日、みんなでお神輿かついだり、踊ったりするんだよ」

「うぉ!日本も神様とダンスするの?やっぱり世界中の神様は同じですね」









ダンス。振動。

存在するもの全て、生物、無生物関係なく、全ての存在が細かく震える。

今夜のような素晴らしい満月は、嬉しさのあまりいつも以上に共振し、皆が足並みをそろえ、言い得ぬ独特の周波数を奏でるのだ。その周波数がまた、それを知らず遠くに聞く者たちを、ダンスにいざなう。

揺れる、震える。

共鳴するものが多いほど、振幅が大きいほど嬉しくてダンスする。








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