夕食を家で食べるのもめんどくさいので、帰宅途中にあるマクドナルドで簡単に済ませる事にした。
喫煙ルームでビッグマックセットを食べていたら、奥の席に座っていたおばあさんと孫の会話が気になった。
耳をダンボにして聞き入った。
おばあさんと思われる女性は、もぐもぐと口を動かしながら、孫と思われる小学三年生くらいの男の子に「欧米か!」と何度も繰り返していた。
孫は「なんだよ糞ババア、同じ事しか言わないじゃん」と毒づいていたが、おばあさんと思われる彼女は全然ひるまず「なんだって?もう一度言ってごらん?」と挑発していた。
「糞ババア」
「欧米か!」
使用方法が違う様な気がしたが、彼女は満足そうに微笑んで、またもぐもぐとハンバーガーを食べるのだ。
すると、おばあさんと思われる彼女は「しかし、あんたの父ちゃんもろくでもない男だったからね、あんただってきっとろくでなしになるよ」と、ろくでもない事を言い放った。
「ろくでもないって?」
「他に女作って逃げちゃうんだもん。そういうのをろくでなしってんだ」
「じゃあ、ちんぴら?」
「そうだね」
ちんぴら扱いしてもいいのだろうか。たとえ今は近くに居なくても、この子にとっては実の父親、悪く言うものではないと思うのだが。
「かっけぇ!」
予想に反して孫と思われる彼は、そんな父を評価した。
「俺もちんぴらになるの?」
「ちんぴらってのは『半端者』って意味だよ。だからあんたはちんぴらになっちゃだめだ」
「えー、でもちんぴらってタトゥ入れてるヤクザなんでしょ?」
「ヤクザとちんぴらを一緒にしちゃいけないよ。こないだ元奥さんを監禁して警察とドンパチやった馬鹿がいたでしょ?あいつ、親分に破門されたんだってよ。破門だよ?かっこ悪いったらありゃしない。ああいうのをちんぴらってんだよ」
「破門されるくらい凄かったんじゃん、かっけぇじゃん」
「あんたはまだ若いからわかんないかも知れないけどね、ヤクザってのは漢なんだ。あいつ、元奥さんに復縁迫ったんだろ?未練ったらしい。そんな女々しい理由でドンパチなんて性根が腐ってんだよ。よくピストル持ってたね」
「父ちゃんはピストル持ってた?」
「しらねぇ」
「父ちゃんは復縁迫らなかったから漢だろ?」
「そうじゃねぇよ馬鹿、逃げっぱなしも五十歩百歩だ」
「俺もピストルほしい」
「漢になったらもらえるよ」
「じゃあ、やっぱりあの人は漢だったんだ。だからピストル持ってたんだよ」
「今時ピストルくらい金出せば誰だって買えるんだ」
「いくらで買える?」
「30万くらいだろ」
「じゃあ、俺に30万円くれよ、漢になるから」
「やるか馬鹿。じゃない、欧米か!」
そして微笑み、もぐもぐとハンバーガーを食べるおばあさん。
「おかあさんのケチ」
おばあさんじゃなくてお母さんだった。
「欧米か!」
「ほらもう『喰いタン2』始まっちゃうから帰ろうよ」