アルナチャラのケイブの帰り道、いつものチャイ屋さんでひと休み。
チャイ屋さんは少し歩けばどこでもある。
日本で言うところの、自動販売機くらいの勢いで、そこここにある。
でも、ここのチャイ屋さんのそれは、少しジンジャーをきかせており、私には大ヒットだ。
私、少しだけ帰りを延ばそうと思います。
あぁ、いいんじゃない。
私にしてみれば、結構大きな選択だったが、
女性(グル)のあっさりとした返事に、なんだか気が抜けた。
そんなもんなんだろう。
流れを、その意味を、
いちいち考えるから、そうして立ち止まっている間に抵抗を生むんだろう。
考えずに、感じたまま流れに乗れば、抵抗も生まれずスムーズに流れる。
そうやって、全てを受け入れてきた女性(グル)にしてみれば、
そんなもんなんだろう。
夕方、名残惜しそうに、韓国人の彼女は母国への帰途についた。
私が少し滞在を延ばしたことを知ってか、女性(グル)の中1の息子が帰りたくないと言い出した。
もともと予定では、私以外の3人は、明日のお昼にここを出ることになっている。
女性(グル)の高1の娘は、
うちは帰るで。学校行きたいし。
もう明日のことやから、出来るかわからへんけど、ソウルメイトに電話してもらうわ。
出来ひんかったら帰るんやで。
女性(グル)は、何とか彼の希望をきいてやりたいようだ。
ほな、帰りはhaluちゃんと同じ日にしたらええな。
haluちゃんは1週間ほど延ばすようやから。
俺は母さんが帰るときに一緒でええ。
お母さんが帰るんはまだまだ先やで。
半年のビザやし。
あんたは よう居れても1ヵ月やわ。 一応 学校のこともあるしな。
母さんもそんなにおらんでええやん。
学校はどっちでもええし。
そうはいかへんねん。
とにかく聞いてもらうからな。
ソウルメイトは、調べたり電話したり、あらゆる手を尽くした。
がしかし、なぜかうまく連絡がつかなかったりかみ合わなかったりして、
結局、男の子の滞在は延ばせなかった。
男の子はもちろん、納得してはいなかった。
翌朝。
女性(グル)はソウルメイトと共に、男の子が滞在を延ばせるようにと手配をまだ続けていた。
でも、すでに帰国当日でもあり、やはり不可能のようだった。
あの子らが起きたらすぐに荷物の支度をさせて、
帰る前にせめてスタッフとバイクを楽しませてやりたいです。
子どもたちは、ソウルメイトのショップスタッフとすぐに打ち解け、
これまで彼のバイクを共に楽しむことをよく求めていた。
9時前、目をこすりながら、子どもたちが起きてきた。
ゴハンすんだら荷物の準備せなあかんで。
スタッフがバイク乗せてくれるから、早よ終わらせなな。
乗れるん嬉しいわ。 早よ食べよ。
女の子は無邪気に喜んでいるが、男の子は表情固い。
俺は帰らんからな。
そうはいかんから・・・ 早よ食べ。
結局変更出来ひんのは、帰ったほうがええ流れやろうし。
そんなん俺にはわからんし。
俺は帰らへん!
お母さんもいさせてやりたかったけど、出来ひんのやからしゃーないやん。
そんなんイヤや!
母さん勝手すぎるわ! 自分だけはおるんやんか!!
そんなら母さんも帰ったらええやんか!!
あんた、いつまでグズグズゆうとん。
ムリなんやから、早よ用意しーや!!
女の子は、冷静だ。
そして、母(グル)がこれ以上胸を痛ませないようにとも思ったのだろう。
女性(グル)は、すでに息子の顔を見れなくなっていた。
きっと、赤くなった瞳に気づかせないために。
男の子も、顔をあげなかった。
よく似た母子だ。
それでもずっと抵抗を続けた。
大好きな母を、なじりながら。
どうしてもどうしても、
母を求めずにはいられないようだった。
離れてても強くつながり合う心と、すぐそばでつながっていたい生身の自分。
男の子は、どちらも気づいている。
そして、闘っている。
その闘いを、どんなときも続けてきた女性(グル)。
一年と少し前から、女性(グル)は子どもたちのそばを離れる生活をしてきた。
それは、役目があるから。
大いなる存在から求められているから。
そして女性(グル)もまさに、大いなる存在だから。
女性(グル)はいつも言っていた。
私は母としては失格かもしれない。
普通の母のようにそばにいてやれないし、すぐに手を差し伸べてやることも出来ないし。
本当はいつだってそばにいてやりたいし、すぐに何でもしてやりたい。
そうであれるなら、そのほうが辛くないんです。
でも、私にはやるべきことがあるから。
離れていても、私は私の方法で、子どもたちをサポートしています。
今はまだ、あの子たちにはわからないでしょう。
でもいつかきっと、わかる時がくるので。
それまで、あの子たちに辛い思いをさせてしまうけど、
彼らの生きるチカラを信じてます。
そう言う女性(グル)の瞳は、いつも赤くうるんでいた。
もう私は、耐えられなかった。
みんなをラクにしたかった。
本当は、わかっとるやろ。
あんな、帰るんやで。
一瞬、空気が止まって感じられた。
男の子は、真っ赤な顔を上げることなく、
プイっと背をむけ、わざとバタバタと音をたてた。
そして隣の荷物を置いてある部屋へ入っていった。
・ ・ ありがとうございます。
女性(グル)は私にそう言うと、膝を抱えて嗚咽した。
・ ・ 生意気に、すみません。
私も泣いた。
隣の部屋からは、しばらく何の音もきこえなかった。
ずいぶんたった頃、帰る用意をしている気配がもれてきた。
闘いきったようですね。
私の言葉に、女性(グル)はまた泣いた。
きらめく夏の太陽が、待ちぶせていた。
スタッフと2人の子どもたちの無邪気な笑い声が、
バイクの機械音とともに、近づいたり遠のいたりした。
少しの瞬間ものがさず、楽しげだった。
女の子と母(グル)は、迎えのタクシーの前でギューっとハグ。
俺は いらん。 キモイんじゃ。
やめろや~。
誰がキモイんじゃ! え?
母(グル)とのじゃれあいの後、
男の子はタクシーの窓越しに、しっかりと手を振った。
さっきまでより、とても広く涼しく感じる部屋の中。
インドに来る前にね、あの子(男の子)と2人でカラオケ行ったんです。
その時にあの子が、
これ、母さんに歌うわ。
って言って、この曲を歌ってくれたんです。
さっきまでいた男の子の声が、アイフォンから流れた。
私たちは、あふれる涙をどうにもできなかった。