《ドンヘ!ドンヘ!》
 
とおくで僕を呼ぶ声がする...ん...ひ...
 
『ひゃっ!』
 
うるせぇよ。ぺちんと。頬に冷たいものが触れる。ぱっと目を開けると。見慣れない天井。知らないひと..
 
《ドンヘ!大丈夫か!》
 
あ...アッパ!起きあがろうとして。こてんと倒れる。う、うごけない...
 
そーだ。僕...学校からかえるときに、声をかけられて。急に目の前がまっくらになって...
 
《ドンへ!大丈夫か!》
 
あ、アッパ!アッパ!ぼ、ぼく...
 
《すぐ助けてやるからな!し...》
 
あ...金髪のお兄さんが。足でフックを踏んだ。あっぱ...
 
『残念だったな』
 
ポケットをがさごそと探って。くしゃくしゃになった箱から、タバコを一本とりだした
 
『ぼ、ぼく...どーなるの...』
 
えぐっ...さぁな。俺が決めることじゃねぇわ。カチンと音がして。タバコに火をつける。ふわりと浮かぶ、白い煙。け、けほ...
 
『あ、わりぃ』
 
靴の裏に。ぐりぐりと押しつけて消した。点けたばかりなのに...
 
『泣くなよ。うるせぇな』
 
お兄さんのまるい目が。きっとするどくなる。だ、だっで...ぐず...ずず...ひぐ...
 
『ムカつくな。そんなぐじゃぐじゃな顔してても、かっこいいってよ』
 
呆れたように。ため息をついて。そんなの...えぐっ...うぅ...
 
あーもー泣くな。ぐしぐしと。乱暴に顔をぬぐってくれる。ついでに。鼻をつまんだり。ほっぺたをひっぱったり。くく。変な顔。その目尻に、シワがよって。お兄さん...こわいひとじゃないのかな...
 
『お前さ...』
 
ここから出たい?え...真面目な顔のお兄さんと目があう。答えに困っていると。手と足をしばっていた縄を切ってくれた
 
『い、いーの...』
 
さぁな...こんなことしたら...お兄さんがおこられるんじゃ...
 
『何とかならぁな』
 
今までも。そーやって生きてきたし
 
『噛まれて逃げられたとでもゆっとくわ』
 
そんな...そんなら...
 
『って!』
 
何すんだ!馬鹿!だ、だって...
 
『かみ跡がないと...うたがわれるかとおもって...』
 
はぁ...だからってマジで噛むなよ。あー、いてぇ...ご、ごべんなさい...ちょっと血が出てる。やりすぎたかな...ポケットからハンカチを出して。お兄さんの手にぐるぐると巻いた
 
『お前...』
 
ぽんぽんと。頭をなでてくれる
 
『この時間なら。起きてるやつはいないと思うけど』
 
音は立てるな。んで。ここをまっすぐ走ってけ。よそ見せずに。お兄さん...
 
『ほら。はやく行け!』
 
ん...ん...ありがと...お兄さんは、小さく手を振ってくれた。すこし。さみしげに...
 
僕はいわれたとーり。ひたすら走った。とにかく走った。何度ころんでも...明るくなったころ。通りがかりのひとに助けられた。そして。この辺を見回っていた警察のひとたちが。わるい奴らをつかまえてくれた
 
その中に。手にケガをした、金髪のひとはいなかったみたい
 
 
それからしばらくして...
 
《会社にこれが届いてたよ》
 
ドンヘのだろう。あ...あのとき...お兄さんの手にまいてあげたやつだ...オンマが。僕の名前と。かわいいわんこを刺繍してくれたもの。きれいに洗濯してある
 
すんっと香ってみると。お兄さんの呆れたような顔が。目の前に見える気がした
 
 
 
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※画像お借りしましたm(_ _)m