どくん...あ...まただ...
何がきっかけかわからない
急に心拍が速くなって。胸が苦しくなって...ひゅうひゅうと喉が鳴る
どうやって息を吸って。吐いていたのか。そんな簡単なことが、わからなくなる
《銀》
海...甘い声と。やさしいぬくもりに引き寄せられて。ようやく息がつけた
《大丈夫だよ》
いつものように。やさしく背中をなでてくれる
銀と海は恋人同士で。海は銀の救世主だった
小さいころは。身体が弱かった。よく熱を出して。よく泣いて。食が細くて。事あるごとに、母さんがくり返す。そのせいか、あらゆる格闘技やスポーツを習わされた
風邪もめったにひかないくらい、丈夫になったけど。発作はたまに起こした。あちこち診てもらったけど、原因はわからなくて。じっとして、気休めの薬を飲んで。時を過ぎるのを待つしかない
サッカーは楽しくて、ずっと続けていた。発作のせいで、レギュラーにはなれなかったけど。練習は必ず参加したし。たまに、試合にも出してもらえた
海と会ったのも。サッカーの試合のときだった。ベンチに控えていて。コーチから、何かを頼まれて。ひとりでそこを離れたんだ
そして。それは突然おきた。強烈なのが
どうしよう。助けを求めようにも、声も出せない。ユニフォームだったから。薬も持っていなかった。息をしなければ...焦れば焦るほど。空気が入ってこない。喉がかわく。脂汗が出てくる。意識が遠くなる...
そのときだった
《どうしたの》
まさに天の助けだった
《苦しいの?》
見上げると。逆光に照らされて。顔はよく見えなかったけど、ちがうチームのユニフォームだった。かろうじてうなづくと
《ごめん。いまスマホなくて》
それは銀も同じだ。その声が。手が。銀に触れたとたん、何故か痺れるような感覚があって。ほっと息が吐けた
《乗って》
持っていたボールを投げだして、銀の前に背中を差しだす。救護室があるから。そこに行こう。君のチームにも、連絡しておくから。よろける足で、その逞しい背中におぶさった
汗の匂いに。高めの体温に。ひびく鼓動に。少しずつ、凪いでいく気がした。早足になりながらも。背中の銀を揺らさないように。肩や腕に力が入る。そのやさしさに。力強さに。銀は心を動かされた
それが。銀と海との出会いだった
その日から。銀は海の手を離せない
《つづく》
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