シウォンさんの部屋のドアをノックした

 

『シウォンさん。コーヒー、淹れました』

 

あぁ。ありがとう。大きく息を吐いて。伸びをする。論文のチェックがあるとかで。書斎にこもっていて

 

『あぁ。うまい』

 

キュヒョンが淹れてくれたコーヒーは。格別にうまいよ。にっこり微笑んで。まるで、宣伝広告みたいに。いつもなら。照れてしまうとこだけど...

 

『シウォンさん』

 

ん?これ...俺の手にあるものに気づいて。シウォンさんの顔色が変わる

 

『お前...何でそれを...』

 

お前なんて呼ばれるの。はじめてだ。それだけ、動揺してるのがわかる。俺が持っていたのは。あの日。間違って届いたはずの、赤いドレスだった

 

 

昨日。シウォンさんに頼まれて。留守中に、パソコンをいじっているときだった。あ、メールだ。ん?このホテル...シウォンさんがこないだ。学会に行ったときに、泊まったとこだよな...ちょっと迷ったけど。メールを開けてみた。もちろん、英文で。えーと

 

《宿泊した部屋で拾得物があった。高価そうなものなので確認してほしい》

 

みたいな感じかな...画像も添付されていて。イヤリング?それも、片方だけ...嫌な映像が頭をよぎる...まさか...シウォンさんに限って...でも...こないだも。ドレスで疑ったんだよな...あの赤いドレス。シウォンさんが処分するって。言ってたけど...もう一度。メールを読みかえす。イヤリングについてる宝石が、ダイヤモンドらしくて。ん?ダイヤモンド...って...四月の誕生石...四月は...

 

《届出は二月なんだけどね。実際に生まれたのは四月なんだ》

 

俺の誕生日を祝ってくれたとき。ワインで乾杯して。ほろ酔いだったけど。覚えてる

 

頭の中で。高速で。いろいろなものが、入れ違っては組み合わさる。テトリスみたいに...

 

ふと。部屋の隅に目をやった。掃除も任されてるから。たまに書斎にも入るけど。ひとつだけ。鍵のかかっている扉があった

 

《論文の資料とか。個人情報とか。世に出ては困るものが、意外とあるんでね》

 

俺にも、暗証番号は教えてくれなかった。試しに。シウォンさんの誕生日を押してみる。最初は、二月の。エラーになった。これじゃない...次は。四月の...かちゃ...ロックが外れた音がした...

 

 

『どこで見つけたんだ』

 

シウォンさんが。低い声で

 

『ここです』

 

昨日、開けた。扉の前に立つ。深呼吸をして。暗証番号を押した。シウォンさんの。本当の誕生日...がちゃ...

 

『やめろ!』

 

シウォンさんが止めるのを無視して。扉を開けた。そこには。色とりどりの、ドレスが並んでいた

 

 

《つづく》

 

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