JW side
どこでもよかった。雑音が聞こえてこないところだったら
メンバーの不祥事に巻き込まれて。バンドが休止状態になって。それならソロでって思ったのに。スタジオにいる写真をアップしただけで、炎上した
信じて。待ってくれてるペンたちを。安心させたかっただけなのに
事務所から。活動とSNSを禁止されて。息が詰まって。何も考えないまま。エアのチケッティングをしいていた
雪国から。雪国へ。緯度が違うからか。空気も。日差しも。雪の質感も違った
あてもなく。ただ街を歩いた。たまに小雪が舞うくらいで。思ったより寒くない
それでも。さすがにつま先が冷たくなって。カフェでも...と、思ったとき。《OPEN》の文字が目に入った
《アルトシュタット》
ドイツ語なのに...ラーメンバー?がっつりメシを食う感じでもないけど。バーなんだから、飲むものもあるだろう。入ってみるか...ここのところ、忘れていた。好奇心とういうものが。むくむくと、湧きおこってくるのを感じた
《いらっしゃいませ》
レトロなドアを開けると。洗い物をしていたらしい店主が、にっこりと片えくぼをへこませた。幸いにも、他に客はいなかった。ここまで来て、バレるとも思わないけど。ひとが多いところは、やっぱり気を使う。地球の裏側のことだって。瞬時に配信される世の中だ
《何になさいますか?》
担いだギターを壁に立てかけて。カウンターの隅に座る。温かいおしぼりと、水のグラスが置かれた
『黒ビールを』
かしこまりました。店内を見回すと。ライブでもやるんだろうか。アンプやら、スピーカーやらが置いてある。BGMもうるさくなくて。気分が落ちついた
《お待たせしました》
小瓶とグラス。お通しなのか、小皿にザウアークラフトときざみチャーシュー。なかなか洒落てる。グラスにビールを注いで。喉が渇いていたのか、じわじわと沁みる。ザウアークラフトの酸味もいい
店主は、ラーメンの仕込みをはじめたようだった。細くみえるけど、大きな寸胴を抱えて。コンロに据えて
思いの外、ビールがうまくて。もう一本、追加しようか。迷っていたとき
《音楽、されるんですか?》
俺が持ってきたギターを指さして
『えぇ。まぁ』
《うちは、ライブもやるんです》
ラーメンとライブなんて。おかしいでしょう。ふふ。やっぱり。あの音響は、飾りではないのか...
《もし良かったら。使ってみてくださいね》
利益は出ませんけど。にっこり笑って。その片えくぼに。何かが弾けた
『今日でも...いいですか?』
え...無料でいいので。30分くらい。構いませんけど...告知とか間に合うかな...いぇ。居合わせた方に、聞いてもらえればいいので。そうですか...
《わかりました》
タオルで手を拭くと。ドアにかかっていたプレートを裏返した
《そうとなったら。少し準備がいるので》
すみません、突然...いえいえ。何ですかね。久々にわくわくしてます。はは...
少し打ち合わせをして。夕方、また来ることにした
《ライブの後は。ぜひ、ラーメン食べてって下さいね》
ええ。楽しみにしてます。こちらもです
一応、撮影禁止に...いや、そんなことしても。どこからか漏れるもんだ。気にせずやろう。自分が。やりたいことを
どこかで、声出しでもしておこうか。冷たい空気を吸いこんで。雪道を歩きだした
《完》
@yesung
@labelsj
※画像お借りしましたm(_ _)m
※下戸なのでお酒の表現、苦手でして(⌒-⌒; )
※本日のラインナップ