ヒョクチェ side



え...ウソ...振りむいたその感じが。その眼差しが。その声が...あの日の記憶が、蘇った...



『配達です』


店のドアを開けると。カウンターの向こうにいた背中が、振りむいた。え...目の裏によぎった映像...まさか...動揺する俺と違って。何事もなかったように


『そこ。置いて』


タバコを持った手で。あ...あのときと...おなじ。腕のタトゥーも。言われたとおり。ふるえる手で、カウンターに器を並べた


えと...あの...


『先日は...お世話になりました...』


ぼそぼそとつぶやくと。ちらっと俺の顔を見て


『知らないふり、しとけばいいのに...』


そういえば。あの日。クーポンを置いてきたんだった。何店舗かで使えるやつだから。俺が配達するとも限らないのに。何で、来ちゃったかな...


『そういうわけにも...』


人がいいな...ぴくりとも、表情を変えずに


『ま。そんなんだから。ダメなオトコに、引っかかるんだろうけどな』


な...


『何で...それを...』


『自分で、しゃべったんだろ』


べらべらと...俺が...そんなに酔ってたのか...そんなに...忘れられないのか...全身の力が抜ける


『飲みすぎない方が、いいんじゃないか』


痛い目にあってからじゃ、遅いだろ。言葉が出ない。どこまで話したんだろう...どこまで...したんだろう...


『皿はドアの外に置いとくから』


クーポン。ありがとな。それだけ言うと。用は済んだとばかりに。背中を向けた



《つづく》



@yesung

※画像お借りしましたm(_ _)m

※きのーの最終更新です