『お圭はいるかぃ』


『だ...始源様』


お圭が、養生所で働いていると知った始源は。時折り、こうして姿を見せるのだった


『久しぶりに木刀を振ったんだが。ささくれが指に刺さってな』


診てくれぬか。またそんな...私では、消毒くらいしかできませんのに...ははっと。愛嬌のある笑顔を見せる


『其方にやってもらうのが、一番の薬よ』


始源様...お圭が呆れながら。薬棚を開けようとしたとき


『先生!先生は!』


百姓らしき男が。その腕に幼な子を抱いて。息咳きって


『う、うちの子が川で溺れて...』


え...見ると、子の顔は青ざめ。四肢は力なく、ぐったりとしていて


『ぁぁ、どうしたら...いま、先生は往診に出てしまっていて...』


そんな...何とかしてくだせぃ!必死の形相に。お圭が唇を噛む


『診せてみろ』


始源様...始源は父親から子を受けとると。布団に寝かせ、首筋にそっと触れた


『お圭。等間隔で数を数えろ』


か、数とは...早くしろ!は、はぃ...大きく深呼吸をして。ひぃ、ふぅ、みぃ...声が震えそうになるのを、我慢しながら。それに合わせて。始源が、子の胸の真ん中に指先をあて。規則正しく動かす


呼吸を確認しながら。何度か繰り返すと。その子の身体がびくっとはね、かぱっと水を吐きだした。けほ...けほけほ...


『あぁ!ありがとうございます!』


父親が、拝むように。何度も頭を下げる。始源が頷きながら、大きく息を吐いた。念の為。医師が戻るまで待つが良い。これ、この子を温める手筈をせよ。へ、へぇ...


『お圭。すまぬが、水を一杯くれぬか』


はぃ、すぐに...お圭が、立ち上がりかけたとき


『如何した』


あ、先生。お帰りなさいませ。先生と呼ばれた、その男は。顔の半分を、仮面で覆っていた



《続》


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※画像お借りしましたm(_ _)m

※きのーの最終更新です