ドンへ side



あの日。ウニョク様は。逃げるよーに帰ってしまった。それから。店に来ることはなかった


当たり前だよな。ヨジャだと思ってた相手がナムジャで。いくら店のコンセプトだとしても。たぶん。決死の覚悟で告白してくれたはずだ


ウニョク様の。俺を見る、きらきらしたアーモンドアイと。うっすら上気した頬を思いだす


純粋なひとを、傷つけてしまった。キャストとしても。ひととしても。誤解だとしても。結果、騙してしまったことに。ひたすら胸が痛んだ



その日は、執事で店に出ていた


『ドンへ。出れる?』


店長のジョンスヒョンが


『もちろんですよ』


鏡をのぞいて。髪とネクタイを整える。でも...ちょっと困った顔をして。その...


『ウニョク様なんだ』


え...あの日以来だ...あの日。ひとりで店に戻って。体調がわるいみたいで、来店はキャンセルになったと伝えた。それ以上のことは話してないし、聞かれてもいない


一度だけ。リョウクがひとりごとのよーに、つぶやいて。忙しいんじゃない?とかなんとかゆって、ごまかした


『わかりました』


ジョンスヒョンはただうなづいて。道を開けた


もう一度、鏡を見て。おーきく息を吐いた


俺は、いま。この店の執事なんだ


いらしたお客様に、こころをこめておもてなしする。それだけ...



《つづく》