ヒョクチェ side



『悪いな。ヒョク。休みなのに』

『いえ。特に用はなかったんで』

よろしくな。支社長から車のキーを預かる。旅行会社に就職して。バリの支社に転勤になって半年。ようやく悪路や言葉にも慣れて。自由に動けるようになってきた

今日は休日だったんだけど。急病人が出たとかで。支社長から連絡がきた

『アヤナリゾートか...』

今日のゲストの書類に目を通す。たぶん、カップルだよな。新婚旅行かな。うらやましい限りだ

時間通りホテルに着いた。あれ?まだいないのかな...それらしいカップルが見当たらない。ナムジャがひとりいるだけだ。ラフな格好の。スタッフってわけじゃなさそうだよな...ウリナラかな?芸能人ってゆっても通用しそうなくらい、イケメンだ。そのイケメンと。ぱっちり目があった

『ねぇ。きみ、旅行社のひと?』

すたすたとこちらに歩いてきて。え...ぁ...はぃ...バンのボディに書いてあった、名前を見たんだろう

『予約してたイ・ドンヘです』

よろしく。あ、失礼しました。ゲストだったか。あわてて名刺を出す

『本日ご案内します、イ・ヒョクチェです』

どーも。渡した名刺をちらっと見ただけで。無造作にポケットにつっこんだ

『お連れの方は、まだですか?』

予約は二名になってる。今日は乗り合いじゃないから。時間はなんとでもなるけど

『ぁ...いえ...』

ちょっと口ごもって。僕、ひとりで...え...もう一度、書類をめくる。確かに予約は二名だ

『ぁ...えと...体調が悪いらしくて...休んでるんです』

車の移動は辛いみたいで...なるほど...食べ物があわなかったとか。疲れが出たとか。そんなとこだろうか

『それなら、キャンセルされても...』

全額とはいきませんが、少しはお戻しできますし...いえ。イケメンはきっぱりと首をふる

『僕だけでいいので。お願いします』

サービスしろなんて言いませんから。それにしたって...具合が悪いなら。そばについてなくて、いいんだろうか...でも。イケメンの意思は固そうだ

『わかりました』

クライアントが望むなら。こちらは応じるまでだ。どうぞ。後部座席のドアを開ける

『助手席でもいいですか?』

ひとりだし。え...えぇ...まぁ...人数によっては、助手席に乗せることもあるし...

『出発しますね』

シートベルトを確認して。エンジンをかけた


《つづく》

※本日のラインナップ