ドンへ side
カサカサと、枯れ葉を踏みしめるたびに音がする。そんな音さえ。音階に聴こえてしまって。無意識に、うたってしまう自分がいて。おかしくなる
それほど。身体に染みついていた場所から退いて、随分たった。アパートも引き払って。故郷の。さらに外れたところに。ちーさな平屋を借りて。それまでの印税やら何やらで。最低限の生活はできるている。たまに、作曲の依頼も受けたりして
わざとテレビは置かなかった。スマホも使わない。Wi-Fiは仕事のときにつなぐだけだ
朝陽のまぶしさに目が覚めて。まだ静かな街をランニングして。庭の手入れをしたり。カーテンを揺らす、風に誘われてピアノを弾いてみたり。鳥の鳴き声にハモってみたり。星空を楽譜に見立てたり。波の音に言葉をのせたり。暗くなったらベッドに入る。眠れなくても
単調で。ただ息をするだけの毎日
もっと、すさんだ暮らしになるかと思ってた。でも、意外とおだやかだ。こころも身体も。空っぽだけど
コーヒー豆がなくなってしまって。自転車で街に買いに行った。ついでに海沿いを走って。夕飯用にキンパを買って。かえってきたら
家の前に。田舎には不似合いな、バカでかいクルマが止まっていた。避けようがなく
『久しぶりだな』
わかっていた。シウォンだと
《つづく》
※本日のラインナップ