ドンへ side



『すげーな。お前』


ヒョクチェくんがカフェに誘ってくれた。ふたりとも、スイカジュースを頼んで


『うまいのな。ピアノもうたも』


う、うまいなんて...じ...自己流だし...自己流!?


『自己流であんだけできるなら、やっぱすげーじゃん』


そ...そかな...よく弾いてんのか?ぁ...た、たまに...う、うちに...ぴ、ピアノが、あ...あるわけじゃ、ないから...そーなのか?うん...


『ひ...ひょ...ヒョクチェくんは...ど、どして...ここに...?』


あぁ。ジュースをずずっと飲んで


『親戚んちがこの辺にあってさ』


買い物、頼まれて。ついでにふらふらしてたら。見たことあるやつが、たのしそーにピアノ弾いてるからさ。びっくりした


『そーいや、お前』


ピアノもうたも、つっかえないのな。ぇ...ぁ...ぅ...そんなの...考えたことなかった...言いよどんでいたら。あ、わりぃ。手をぶんぶんとふって


『からかったわけじゃねーよ』


ぁ...うん...なぁ、お前さ。テーブルに頬杖をついて


『ピアノ弾いてるとき。何、考えてる?』


何って...な、な、何も...覚えてるのを、弾いてるだけだし。譜面も追わないし...


『だろ?』


え...あれこれ考えるよりさ。一旦、頭んなか、空っぽにしたほーが、うまくいくかもしれねーよ。そ...そかな...ヒョクチェくんの言葉が、すぅっと入ってくる


『素人考えだけどな』


照れくさそーに。ジュースのカップで顔をかくして。でも。そーやって考えてくれたのが、うれしかったんだ



《つづく》


※本日のラインナップ