ドンへ side



彼のうた声に出会ったのは。一本のデモテープだった。スタッフが試聴しているのを耳にして。そのやわらかで。透明感のあるうた声が、気になった


『うたってるのは誰?』


PDも気になります?音量をあげて。元は作家部門で応募されたやつなんですけどね。作品よりもうた声の方が注目されて。それはそうだろう。はじめて聴くのに。あたたかくて。どこか懐かしくて。不思議な感じがした。オーディションに声かけたんですけど...落ちたの?いえ...


『うたえなかったんです』


うたえなかった?はぃ。これ、見てください。パソコンを操作して、データを開く。スタジオなんだろう。マイクの前に立つひとりの少年。ふわんとしたイメージの。何が気にいらないのか、ヘッドホンをつけたりはずしたり、落ちつきがない。そのうちうろうろと歩きまわって。とうとう靴をぬいで。部屋の隅にすわりこんでしまった


『どうやら。先天的だか後天的だか、障害があるらしくて...』


障害...施設にいるらしいんですよ。意思疎通もそこのスタッフじゃないとムリみたいで。施設のHPでも、うた声は公開してるんですけど。うたえって言っても、うたえるもんでもないみたいで...それじゃ...仕事としてはきびしいよな


『この子、名前は?』


えーと。クレジットは《ウニョク》になってますね。ウニョク...か


彼のうた声を確かめたい。この耳で...



《つづく》