バイトが終わって。キンパをポジャンして帰ると。アパートの前に、外国製のスポーツカーが停まっていた。邪魔だな...避けよーとしたとき。窓が開いた。ひょぃっと顔を出したのは...ドンへ!?
『やっと帰ってきたぁ』
もぅ待ちくたびれたよぉ。かけていたサングラスをあたまにのせて。車を降りる
『決まったよ。ドラマ』
うん。主役だろ。おめでと。知ってたの?あたりまえだろ。見たよ、記者会見。ふふ。ありがと...
『ヒョクが背中を押してくれたおかげだよ』
そんなこと...ねぇよ...お前はあるべき場所に戻っただけだ。忙しいのに、こんなとこで何してんだ。あー。えっとね...
『今度は俺がヒョクを拾おーと思って』
は...?俺のマネージャーになってよ。ま、マネージャー?って...何だよ、いきなり。ヒョクんちにいる間にさー、前のマネージャー、デビューしたての後輩くんについちゃったんだ
『だから。いま俺、セルフマネージメントなの』
撮影はじまるし。取材も増えたし。さすがにきつくなってきたからさー。手伝ってよ。は...?そんなの...やったことねーし...
『俺の扱いはよくわかってるでしょ』
にんまりと。それに。いろんなバイトやってきたんだから、すぐに覚えるよ。そんな...言われるままに動いてるバイトと。芸能人のマネージャーじゃまったく違う
『ヒョクが働き者なのは知ってるし』
俺なんてのマネージャーって、朝早かったり、夜遅かったり。休みもあったりなかったりで。体力使うことも意外とおーいからさ。きつくて辞めるひと、けっこーいるんだ
『でもヒョクだったら。大丈夫かなって』
お前...それ...俺をこき使う前提だろ...
『俺のこと。見たいってゆっただろ』
一番近くで見れるよ。そ、そーだけど...はぃ、決まりー。えぇ!はぃ、乗ってー。な、何だよ!事務所行くの。事務所!?そ。契約しに。は!?社長には話してあるから。しゃ、社長って...俺...シャワーも浴びてねーし...いーから、いーから。運転席にぎゅうぎゅうと押しこめられる。おぃ...何で運転席だ...
『運転もマネージャーの仕事だよ』
さっさと助手席に座って。住所はナビに入ってるから、よろしく。ばちっとウインクして。サングラスをかける。こんな高級車...運転したことねぇよ...にこにこ顔でとなりに座る、ドンへに目をやった。あ、キンパだ。腹減ってたんだよねぇ。勝手に包みを開けて。おぃ...はぃ、ヒョク。え...一切れ俺の前に差しだした。ほら。あーん。ぁ...ぁぁ。つられて開けた俺の口にぐいっと押しこんで。自分も一切れほおばった。うん。うまぃうまぃ。ふいに。ふたりですごした短くも濃いめの日々が横切った
『これも...わるくねぇかもな...』
『ん?何?』
いや。なんでもねぇよ。早くぅ。ごーごー。わかったよ。二個目のキンパをくわえて。アクセルを踏んだ
《完》
※本日のラインナップ