『トヘちゃん。ひさしぶりだね』
ほんとに久しぶりに。ウニョクさんのおもてなしについて。声のトーンがふわっとあがる。ほっぺたをほんのりピンク色にして
『元気だった?』
え、えぇ。ウニョク様も...うん。最近なかなか来れなくて...そーかも。あんまり見てなかったかも
『ちょっとおこづかい、きつくなっちゃって...』
へへっとわらう。鼻をこする癖。まだ小遣いとかもらってるのかな...大学生にもなって...
でも大丈夫だよ!ぱっと顔をあげて
『僕、フィギュア集めてるんだけど』
その中にレアなやつがいくつかあって。売ったらけっこーな額になったんだ。え...
なんかひっかかった
お客様の笑顔の裏に何があるかなんてわからない。うちはまだ健全なほーだとおもうけど、身の丈以上に店やキャストに注ぎこんでしまうなんてよくある話しだ。でも...ちがう気がした
『そんなの...おかしいです』
つぃゆってしまった。キャストとして逸脱した発言なのはわかってる。でも自分の大事なものを処分して。通いつめて。そんなのちがう。この店はお客さまに癒しと安らぎを届けるのがコンセプトだ。そのせーでお客さまがツラいおもいをするなんてまちがってる
嫉妬だけじゃない。ウニョク様に。ヒョクチェに。そんなことをしてほしくなかった
『大切なものをお金にかえてまで、来ていただく理由がありません』
ウニョク様が目をまるくして。だまってしまって。その日から。来なくなったんだ
『トヘ。おもてなしについてくれる?』
あ、はぃ。鏡で身だしなみをチェックする。フロアに出ると...あ
『久しぶりだね。トヘちゃん』
ウニョク様...そこにはウニョクさんのかわらない笑顔があった。いつも通り紅茶のオーダーを通して
『ウニョク様...あの...』
何?にっこりと。目尻にシワをよせて。先日は失礼致しました。あたまをさげる。至らぬ事を申しました
ううん...
『トヘちゃんにいわれて気づいたんだ』
自分の甘さに。だからね...
『僕、バイトはじめたんだ!』
昨日ね、はじめてのお給料だったんだ!だから今日は絶対こようとおもって...
え...きらきらと目をかがやかせて。そんな日にトヘちゃんに会えるなんて、ツイてるなぁ。うれしーからケーキもたのんじゃおっかな
『かしこまりました』
このいちごのケーキね。はぃ。ドンヒヒョンにたのんで、プレートに何か細工でもしてもらおーかな。ちょっと胸がアツくなった。ウニョクさんのやさしさに。素直さに。じんわりにじんだなみだをそっとぬぐった
《つづく》
※きのーの最終更新です