G研有明病院の緩和ケア病棟への転院② | 大腸ガンで逝ってしまった双子の妹の451日の闘病記録

大腸ガンで逝ってしまった双子の妹の451日の闘病記録

2022年8月に54歳の若さで大腸(横行結腸)ガンにより逝ってしまった双子(二卵性双生児)の妹の闘病生活を兄目線で想い出しながら記録として残します。

G研有明病院の緩和ケア病棟への転院①からの続き

 

12階東病棟に通された我々は、ナースステーションから一番離れている1271号室に入ることとなった。

 

この緩和ケア病棟は、G研有明病院の最上階に位置し東京ビックサイト越しに東京湾も見えて眺めが素晴らしい。

 

また『緩和ケア』という特殊な事情もあるため、他の一般病棟とは違ってコロナ禍であっても一定の条件下で家族の面会が許されている。

 



病室に入った我々は看護師の方から病棟の説明を受けた後、外部から来たため感染対策のため本日は帰るまで病室の外には出ないように釘を刺された。

 

このことは事前に通知されていたので、事前に昼食も買っておいたし病室内には付添い用のソファーベッドやトイレもあるので、特段心配することはなかった。

 

そうこうしていると、白衣を着た長身のイケメン男性が病室に入ってきた。

 

※自分が診察に付き添った時は必ずスマホで先生の説明を録音していたので、そのデータから文字起こしした診察室でのおおまかな会話内容です。

 

I先生:「初めまして、本日からXX(妹の苗字)さんを担当させていただきます、主治医のIと申します。よろしくお願いいたします。」

 

妹:「こんにちは、XXです。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」

 

この時、私は挨拶する妹の表情を見ていたが明らかに目がハートであり、それは横にいた妻も同様であった。

 

たしかに、男性の私から見てもマスク美人ならぬ『マスクイケメン』であり、大変申し訳ないが医師というよりジャニーズにいそうなアイドルを思わせる風貌であり、しかもそのしゃべりかたが優しさにあふれている異色?の先生である。

 

I先生:「それでは現在の病状についてですが、腹膜播種などの影響により腹水が溜まりやすい環境が出来上がってしまっていて、血管の中に水分を貯めておく機能を持った『アルブミン』というたんぱく質があるんですが、これが腹水と共にお腹の中に漏れ出てしまい、血管の中に水分を留めておけなくなってしまって水分を取ってもお腹の方に出て行ってしまうという状況になっています。

 

血液データを見てみるとこうした状況からアルブミンの値が低くなっていることに加え、ナトリウムの値が結構低く『低ナトリウム血症』の状態にもなっています。

 

このナトリウムというのは体の中で浸透圧を作ったりするもので、あまり低くなってしまうと意識障害が出てしまうことがあります。

 

通常の方がだいたい140前後なのに対してXXさんの場合は119なんですが、この値というのは1日2日でこの値に低下してしまうと昏睡状態になってしまうような値です。

 

とは言っても、ゆっくり進んでこの値になる場合は体は慣れてくるので今現在は影響が出ていないんだと思うんですが、これ以上進んでしまうと意識障害や痙攣が出てくる可能性もあるという、ちょっと怖い値であることをご承知ください。

 

これを改善するために現在腹水が溜まりにくいように利尿剤を使っていると思うんですが、利尿剤の特性としてナトリウムを下げてしまう現象があるんです。

 

利尿剤というのは塩分を外に出す働きがあって、その塩分に釣られて水分が出るという仕組みなんですね。

 

そこでいま検討しているのは『サムスカ』というお薬で塩分は外に出さずに水分だけ出すという効果があるのですが、じゃあとても良いお薬かっていうとそうでもなくて塩分を残すのでのどが渇いてしまうとか、逆にナトリウムの値が一気に上がり過ぎてしまう副作用があったりしますので、始める場合は少量から始めていきたいと思います。

 

ただし『水分をきちんと取れる』ということが絶対条件になり、水分が取れないと脱水症状になって危ないのでそれは大丈夫でしょうか?」

 

妹:「水分は問題なく飲めるので大丈夫です。」

 

I先生:「分かりました。それと医療用麻薬の話ですが、お腹の張りや痛みに使うこともありますが、呼吸の苦しさに使うこともあります。

 

逆に言うと呼吸の苦しさっていうのは、麻薬じゃないとなかなか取ることが難しいです。

 

麻薬は抵抗もあると思いますが上手に使えばとても良いお薬で、言葉の響きが怖いかもしれないですがこれから苦痛が強くなってきた時に症状に応じた形で使うことは生命予後の観点からもちゃんと使ってあげた方が患者さんにとっても良い時間を過ごす事が出来ますので、今後状況に応じて使用も検討していきましょう。」

 

あと今後の事なんですが、今の時点で我々も予測するのは難しいのですが、ご病気自体が進んでいってしまうと意識障害の一種である『せん妄』という症状が出ることがあります。

 

軽いものでいうと『考えがまとまらない、集中ができない』という所から始まって、『ご自分が何でここにいるのかわからなくなる、話している相手が分からなくなっちゃう、時によっては点滴を抜いてしまう、頑張って動こうとしてベッドから落ちて骨折する』というケースもあります。

 

ですので、そういった状態になる前に何かやりたいことがあるとか、会っておきたい人がいるなど、ご希望がございましたら早めにおっしゃってください。

 

また今後検査データなどを見ていき、今後残された時間がこのくらいしかないと分かった場合にはご本人としては、それをお聞きになりたいですか?」

 

妹:「それは教えて欲しいです。」

 

I先生:「承知しました。そういった状況を踏まえて行動していただくことは非常に大事ですので、経過を見ながらお話していきたいと思います。

 

最後に今ご説明した話ことも含めて何かご質問など、ございますか?」

 

妹:「いまのところ、大丈夫です。」

 

I先生:「それでは、良い時間をできるだけ長く取れることを目標にサポートさせていただきますので、よろしくお願いします。」

 

我々:「こちらこそ、お世話になります。よろしくお願いします。」

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こうして妹の人生最後の2ヶ月を過ごした緩和ケア病棟での入院生活が始まったのであった。


これ以外に『緩和ケア1か月問題』という重要な話があったのだが、それは長くなるので次回に持ち越します。

 

天に召されるまで残り65日