そうか僕は。
僕が本当の自分と向き合ったのは小学2年の冬だった。
熱い、と指先が誤解する程に底冷えたマンホールの上で一匹の雀が横たわっている。
思い起こせば僕が死と対面したのはそれが初めてで
可哀想に、のギリギリ一歩手前で背筋にゾワリと恐怖が走る。
唐突に、不躾に死を突きつけられた恐怖だ。
そんな自分が恥ずかしくもあり、おずおずと雀に手を伸ばす。埋葬くらいしてやらなければと思ったのだ。
そっと指先で触れた雀は滑らかで、異様な冷たさがある。
帰宅途中のランドセルからプリントを取り出しそこに雀をすくう。
素手でこれ以上触るのには抵抗があった。
すると僅か、雀は嘴を震わせその目をさらに開いた。
生きている!
生命のカケラを認めた僕は
先程までこの手で死に触れる恐怖に怯えていたのに
プリントを投げやり両の手で雀をそっと覆った。
小さな雀はやはり小さな僕の手の中で、確かに呼吸し身体を揺らしていた。
身体を温めてやれば助かるかもしれない。
日曜の朝、悪から世界を救うヒーローに僕は憧れている。それも毎週だ。
僕だって、雀一匹救ってヒーローになる!
そう思う一方で、ある好奇心がフツフツと膨れ上がってくる。
死とはどんなモノだろうか?
今しがたまで恐れていた死がニセモノだったとわかるや否や、僕は俄然、死の体験に囚われた。
下校を過ぎた通学路、いつもは人が行き交うのに
今は皆無だった。
ヒーローになるのは人がいる時がいいではないか。
そこにはやはり応援や声援が不可欠だ。
僕が毎週テレビの前でそうするように。
再び左右後ろを振り返り、僕は両の手にそっと力を込める。
ヒュッと音を漏らし雀のともし火は消え、僕の手の中では死がじわじわと広がっていく。
頬は上気し、肩で息をするほどに胸が高鳴る。
そうか僕は。ヒーローにはなれない側の人間なのだ。