さすが大人だ。痛いところを突く。
 
一年後輩の彼女の卒業を待って、一緒に上京して二人で生活する。
 
劇団に入った僕は、一躍その劇団のスター俳優となり、舞台はおろか映画・テレビでも大活躍。
 
そして、内助の功。支えてくれた彼女とめでたく結婚。
 
それが僕の描く成功へのシナリオだった。
 
6歳年上の、しかもショウビズ界を見てきたHさんからすれば、チャンチャラおかしな夢物語だ。
 
さしずめ、成功した俳優のインタビュー番組の見過ぎとでも言いたいのだろう。
 
俳優の世界なぞ、そんな甘いものじゃない。ましてや、いま交際している女性とだって一生添い遂げられると思い込んでいる。
 
君が思うほど、人生は一直線じゃないよ。
 
いろんな紆余曲折があるんだ。
 
二つの夢、どちらも叶うと思ったら大間違いだ。
 
悪いことは言わない。今すぐ上京しろ。彼女の卒業なんて待つな。
 
そういったことを、Hさんは言うのだ。
 
僕にとっては厳しすぎる。
 
まるで彼女を捨てて、自分の夢を実現しろ!と言っているように聞こえる。
 
俳優になって、好きな彼女と結婚する。
 
自分で学費と生活費を稼いで、まがいなりにも大学と名の付くところを卒業して見せても、やはりまだ現実の厳しさと夢想する甘美さとの区別が付いていないのだ。
 
そんな僕は、もうすぐ21歳になろうとしていた。