「新クロサギ 完結編 2」の感想です。




※ネタバレします。


◎「新クロサギ 完結編 2」

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前巻に引き続き、


本命である宝条を狙い、まずは彼と繋がりの強い

蒲生議員に揺さぶりをかける黒崎。

その黒崎に協力する犬伏。

黒崎を止めよう、保護しようと、動く神志名と桃山。

離反した黒崎を放置している読めない桂木。

次第に追い詰められてきた宝条と蒲生のあがき。


そんな各々の様子が描かれた、完結編2巻でした。



今回も個々のキャラクターの動きや心情が

様々に描かれていて面白かったです。


面白かったです。


面白かったけど・・・

今までのように個別の詐欺事件があるわけでないし、

黒崎対宝条で特に大きな動きがあったわけでもないし、

まだ最終対決の前夜の仕込みといった段階なので、

特にこれといった感想は・・・ないです。



個々の状況や心境や動向は面白いんですけどね。

なかでも警察関係と宝条さん、蒲生さん関連が

印象に残りました。


黒崎の本命が宝条と知った神志名と桃山。

二人とも黒崎にある種の情を持ち、

その計画を阻止しようとする思いは同じ。


けれど、

根源にある意識と立場は異なっていました。


詐欺師として詐欺師を滅しようとする黒崎。

対し、警察という正当な立場と手段で

詐欺師を根絶しようとする神志名。

神志名はこれ以上黒崎に罪を重ねさせること、

御木本の時のようなことが繰り返されることのないよう、

宝条を捜査、逮捕し(かな?)、黒崎を止めようとします。


根底にあるのは意地とプライドです。


しかし、

桃山は神志名とは違うものを抱えて動いていました。


かつて黒崎の父親が詐欺の被害に遭い、

一家心中事件を起こした際、

無力だったことを今でも悔やんでいる桃山。

桃山は裏社会のルールを逸脱し、

死に向かって歩く黒崎を、

逮捕という形で保護しようと黒崎を追います。


根底にあるのは後悔と贖罪の思いです。


神志名と桃山。

同じ方向を見て動いていたはずの二人ですが、

ここにきて根底にあるものの違いから

亀裂が生じました。


黒崎に何もしてやれなかったこと、

今も何も出来ないでいることに

自責の念を抱く桃山。

彼は、今、黒崎を助けるために、

刑事としての魂も捨て去る決意をしました。

「まるで詐欺師の手口」のような無茶な捜査で

黒崎の逮捕を実現させようとする桃山。


そんな、突然、変貌したように見える桃山に、

神志名は容赦ない批判を浴びせます。

それに冷えきった目で静かに反論する桃山。


「今まで・・・・・・・・・

あなたがやってきた数々の無茶な捜査に対して、

私が一度でも異議を申し立てたことがありましたか。

警部補。」


今まで使わなかった敬語。

そして「警部補」という呼びかけ。


しかし、これだけでは終わらず、

桃山さんは畳み掛けるように言います。


「あなたなら私と同じことをしても、

なんとかなるでしょう。

なんせ立場が違いますから」


今まで触れなかった立場の違いを

はっきり口に出して突きつける桃山さん。

そして、それを出されては何も言えなくなる神志名さん。


ああ、なんか辛い。

今までずっと読んできて、そこまで注目していなかった

この二人の関係性だけれど、何となく安定したものを

感じていたので、ここにきてこの展開が辛い。

地味に心にダメージを受けました。

あと、覚醒したダーク桃山さん、怖い。


あ、余談ですが、

この二人のエピソードに出てきた浜 聡子さん。

60歳だけどいつまでも若々しく、

元気に溌剌と東都スワン銀行からLCを利用して

しこたま金を引き出した浜 聡子さんの活躍は、

「新クロサギ」の16巻に収録されてます。


この巻で警察の二人と、もうひとつ心に残ったのは、

詐欺師・・・といっては若干違いますが、

黒崎の狙う敵側の宝条と蒲生でした。


どちらもこれまで黒崎が仕掛けた罠によって、

じりじりと金と権力を削ぎ落されてきた二人。


蒲生議員はスキャンダルによって、

世論からも、党内からも、そして自身がリーダーである

同じ派閥の議員たちからも、反発を受けます。

本人も言っている通り「火だるま」です。

失脚も間近と思われる勢いです。

しかし、彼にはまだ切り札がありました。

新党結成という・・・!


と書くと、威勢がいいようですが、

もう党内に居場所がないだけです。

「新党結成はいずれするつもりだったし!」とか

何とか言っちゃってますが、もう他に仕様がないだけです。

それで、一生懸命、新党結成のために動くわけですが、

その様がなんかもう・・・。


新党結成はいいけれど、与党になれなければ意味がない。

連立を組んででも与党になろう。

そのためには、議員の数と、選挙のための莫大な資金が

必要だ。

で、その二つをどう集めるか。


議員・・・若手の議員、ついてきそうな議員を、

舌先三寸で丸め込む。

「大臣」という言葉で釣ったり、

「党代表」という言葉で釣ったり、

挙句の果てには黒崎が使った詐欺の罠まで

利用してみたり・・・!

もう必死感、満載!!

ついてこさせてしまいさえすればこっちのものだ!

という、この場当たり感が涙を誘います。


蒲生さん、いつからそんな小物感溢れる人に・・・。


そして、もう一つ必要な、金。

この資金繰りの大半を任されたのが宝条さんでした。

黒崎の何度もの攻撃により、行内での勢力争いに負け、

閑職に回された宝条さん。

それでも「ひまわり銀行次長」という強い肩書きを

もっている宝条さんに、蒲生さんからチャンスが

与えられます。


新党結成のために100億円を用意しろ!

一ヶ月でな!!


無茶な・・・!!

と、思いますが、この最大のチャンスを掴まなければ

もうどうしようもない宝条さん。

こちらも切羽詰まっています。


で、資金繰りにあれやこれやと手を尽くすわけですが・・・。

恩のある会社に金を出させたり、

恩のある会社に頭を下げて念書を書いて

トンネル融資に協力してもらったり、

ついには、ひまわり銀行の保有資産を担保に

金を借りると言う禁じ手中の禁じ手を・・・!!


ああ、何だか切ない。

今まであれほどいいように人と金を動かして、

いつでも泰然と高みから見下ろしていたような、

悪の親玉的な、あの宝条さんが、今は

「自宅とマンションと田舎の土地を売っても

大した金にはならないしなあ・・・」

と思い悩みながら帰路をとぼとぼ歩いてるなんて、

なんか・・・なんか・・・悲しくなるわ!


このように。

今まで盤石の地位と権力でもって

他人を顎で使ってきたこの二人が、

今はもう必死こいてどんな手段でもいいから

自分を守っていこうとする姿には、

何故か複雑な切なさのような感情を覚えました。


まあ、でも、まだまだこれからだけどね!



そんな感じで。

特に感想はないなあと思っていたけれど、

書いてみたら意外と長くなった完結編2巻でした。



あ。

あと、

本筋には関係ないかもしれませんが、

鷹宮助教が元日銀総裁の今出川さんと

TPPについて話している場面も印象的でした。

鷹宮さんはTPP賛成派ですが、

デメリットとして挙げられた幾つかの事例が
さらっと怖いこというな!!

という感じに衝撃的でした。

ちらっとしか語られてないのに怖いよ~怖いよ~。

でも、TPPについてほとんど知らないので

この作品でもっと取り上げて欲しかったです。