「新クロサギ」14巻の感想です。



※ネタバレします。



◎「新クロサギ 14」

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この巻では、


震災の混乱に乗じて被災者や被災者を支援したい人々を

騙す「震災復興詐欺」の完結編、

一人の秘書が会社の「組織の維持を最優先する」という

性質を利用して詐欺を働く「秘書詐欺」、

未公開株を売りたいという電話をかけた後、

別会社名でその株を高額で買い取りたいと繰り返し電話し、

信用させて金を騙し取る「劇場型詐欺」、


これらの詐欺が扱われていました。

「劇場型詐欺」は触りだけですが。



「震災復興詐欺」。

阪神の時も中越の時も震災後には詐欺が横行したよう

ですが、やはり東日本大震災後の詐欺は規模や被害額が

相当のものだったようです。


手口も様々あるようで、この巻で紹介されているのは、

震災で半壊した家を直すと言って適当な工事をし、

料金を騙し取るもの。

被災した家の後片付けを手伝うと言ってボランティアを

装い、後から代金を請求するもの。

「自治体からの保障金を優先的に受け取るために

登録料がいる」と言って金を取るもの。

・・・と数種類でしたが、現実にはもっと沢山の詐欺が

行われているのだと思います。

思います・・・

ていうか、

思うとイライラします。

弱っている人を更に痛めつけるとか最低だよ。


あ、あと「被災者を支援したい」と思っている人々に対して、

「義捐金詐欺」なるものがあるそうなので、更にイライラが

募ること請け合いです。


人の不幸や善意に付け込んでとにかく金金金とか、

この世には鬼がいるものです。


それはともかく。

この話では氷柱ちゃんとそのお友達で同じ法学部の

女の子・エリカちゃんが中心となって詐欺師を追いかけて

いたのですが、そのエリカちゃんと弁護士の加藤先生が

ちょっと面白い感じでした。

役所で被災者の相談を受けるボランティアをしている

加藤先生と、同じくその手伝いボランティアをしている

氷柱ちゃんとエリカちゃん。

詐欺に騙されているけれど自覚がない被災者のお年寄りを

巡って、一人だけに関わっていられないと突き放したような

態度の加藤先生と、放っておけないと義憤にかられるエリカ

ちゃんが対立してしまいます。


・・・が。

最後は加藤先生のデレ炸裂。

実はそれとなく気にしてて手を回してたり、

「その熱すぎる正義感は、弁護士向きだと思ったんだけどな」

とエリカちゃんに言ってみたりする加藤先生。

もう、加藤先生ったら、ツンデレちゃんなんだから~♪

とにかくこの話は加藤先生のツンデレ勝ちだと思いました。

加藤先生、恐ろしい人。



「秘書詐欺」。

この話はいつもとは少し毛色の違う感じがしました。

個人を騙す詐欺の手口がどうこう、

企業を騙す詐欺の手口がどうこう、

そういったことではなくて、一人の秘書がいかにして

詐欺を働いていったかという心理面に割と重点が

置かれていたような気がします。

それと・・・企業や国といった「組織」というものと

それを構成する「個人」の関係・・・?とか・・・?

なんかうまくまとめられないけど。


秘書という仕事。

自分はそれほど給料が高いわけでもないけれど、

上司の役員やその取引相手は皆高給取り。

仕事で会う人は皆上流階級、

周囲はいつも贅沢な物ばかり。

しかし、自分は雰囲気だけは上流を味わえても、

決してそこには加われない。

その鬱屈した思い。

愚痴を言いたくても秘密を漏らせない立場で

誰にも零せず、実態を知らない世間からは

「華やかな仕事」と無邪気に羨まれる。

孤独と報われなさ。


そういった感情からホスト通いをするようになり、

借金を作り、その返済のために会社の名を

利用して詐欺を働くようになった秘書の女性。


ここに描かれた確かに詐欺師の女性を、

しかし私は何故か憎み切ることが出来ませんでした。


何だか物悲しいんですよね。

詐欺に手を出すことはともかく、

その動機には共感可能だし、

会社の「組織維持を最優先」という性質を巧みに

利用している狡猾さも、最終的にはその性質ゆえに

自分一人だけが破滅させられることになるし・・・。

まあ、全ては自業自得といえばそれまでだけれど・・・。


うーん・・・。

何か悲しい女性だよ。

「今回も勝負に勝った!!」とか鼻息荒くしてるけど、

完全に負けてるし・・・。


えーと。

で。

この話はその女性の顛末だけでは終わらず、

それと平行するように宝条の甥・鷹宮助教の

持論が熱く!激しく!冷徹に!語られます。

「組織」と「個人」の関係について。

組織の上に立つ者の考えるべき位置について。

これは上の詐欺師の女性の話ともリンクする内容で、

同時に勿論普遍的な(?)問題でもあり、色々と考え

させられて面白いものがありました。


鷹宮助教は、アメリカ型のピラミッド社会を目指すべき

社会だと考えているようです。

多くの中低所得者が数少ない高所得者を支える社会。

中国はアメリカよりも格差に大きな開きがあり過ぎ、

日本はかつてはある意味理想に近い形だったけれど、

バブル後リーマンショック後の現在ではそれを維持する

ことは叶わない。

で、アメリカ型ピラミッド社会が一番安定していて

目指すべき社会だと彼は考えているようです。

「国民誰もが幸福な社会」の実現など有り得ない。

一人一人を幸せに、など上の者が考えるべきこと

ではない。

上の立場のものは、個人個人全てを幸せにする

理想論ではなく、現実的に組織維持を最優先、

そしてその先にある多くの個人を幸福を考えるべきだと。


ふーむ・・・。

確かに理想論だけじゃあ何も出来ませんよねえ。

でもさあ・・・。

上の人が現実的にしか考えないとなると

ちょっと怖い気もするんだよねえ・・・。

理想論だけでも怖いけどねえ・・・。

なんかなー。

言ってることは分かるんだけど納得しきれないんだよなー。

だってさー。

どうせ鷹宮助教だって

「ピラミッド型社会、組織維持が最優先なのが理想的な社会だ。

で、君はその理想的な社会を作るため底辺に位置してもらい

たい。僕と契約して底辺として生きてよ。あ、願いは一つも

叶えないよ。自分の努力で這い上がる可能性はないわけ

じゃないからね(確率低いけど)。きゅっぷい」

って、たとえば急に現れたマスコット的な白い動物から

言われたら、嫌だって言うでしょー?

言わないの?

どうなの?

少なくとも叔父さんは言うと思うよ?

そうやって思うとなんかさー。

納得できないんだよね。

うーん・・・。



「劇場型詐欺」。

最初に「某会社の未公開株を買いませんか」と電話がきて、

断ったら、その後次々と別会社から「その未公開株を

持っていたら高額で買い取りたい」と電話が来て、

最終的に最初の会社から再度電話が来て、

実際は紙くずのような未公開株を高値で買ってしまう。


この詐欺、聞いたことがあります。

作品内でも「最近めちゃくちゃ流行ってきてる」と

書かれているし、実際そうなんだと思います。

最近のトレンド詐欺です。


黒崎君の言によると「今年はこの手の詐欺の“元年”って

言われててね」らしいです。

今年は劇場型詐欺元年です。


いらないトレンドにいらない「元年」・・・。


とにかく、これはまだ触りだけなので、

詳しいことは次巻を待ちたいと思います。




あー。

何か長くなったなー。

まだまだ書きたいことあったんだけど。


えーと。

とりあえず、今回の巻は、

BARなのに「冷やし中華始めました」の紙を

壁に貼って、しかも多分実際に作っている

桂木さんはどうかと思いました。

ん?いや、バーでも冷やし中華ってあるのかな!?

お酒飲まないから分からないけど。

でもどっちにしても今作ってるのはお昼御飯用だよね!?

お客いないし!

・・・また桂木さんと早瀬さんのほのぼのお昼風景が

目に浮かぶ・・・・・・。