◎「不発弾」
- 不発弾 (講談社文庫)/乃南 アサ
- ¥520
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こちらも一応、人々の日常を描いた短編集です。
「一応」というのは、サスペンス風味で、
設定が「日常」というには突飛なものがあるからです。
が、そこに描かれている人々の心理は「日常」と
言っていいと思います。
ただ、前の「トリップ」よりもこちらの作品の方が、
人間に対する不信感が表れていて、
ほっとします安心します安堵します。
故郷に帰ってきたような懐かしさを覚えます。
そうさ、アタイは人間として駄目なヤツさ。
いつも満員の古びた居酒屋「みの吉」。
最初は、客と店主達の連帯感に戸惑いを覚えた主人公。
だが、その店の煮込みの味に心を奪われ、いつしか
自分もその連帯感の一員となった。
家族のような空間に懐かしさを覚える主人公。
しかし、ある時、店の常連客達が次々に死んでいく事実に
気がつき・・・
という「かくし味」。
昔は仕事で成功していたが、友人に裏切られて借金を負い、
妻にも逃げられ、今はタクシー運転手をやっている男。
しかしその仕事も、今夜イラつく客を強引に下ろしてしまった
ことで解雇されるだろう、と男は投げやりに思う。
自殺も考えたその時、不審な外国人客が乗りこんできた。
カタコトしか話せない客の腹にはナイフが刺さっていて・・・
という「夜明け前の道」。
等々。
色々な人の6編の話が収録されています。
どの話にも、現代に生きる(といっても少し前かな?)人々の
心の疲弊と、荒みと、諦めが描かれています。
それらの人々は物話の中で、希望を見つけたり、
駄目になったりします。
ま、そこはざっくりと(笑)
私が一番気に入ったのは、表題作の「不発弾」でした。
主人公はデパートに勤めるサラリーマンの男性。
可もなく不可もない平凡な日常に一応満足していたはず
彼ですが、その思いは次第に揺らいでいきます。
職場で担当部門を移され、多少の失望を抱えていた主人公。
色々なものを心の中に抑え込み、家族のために働く毎日です。
しかし、ある日、息子がナイフを万引きしていたことを知って
驚きます。
が、まだ驚くのは早く、
娘は知らないうちにアルバイトを始め、息子は初犯ではなく、
妻はそれを黙認するばかりで・・・
と、自分の知らない家族の顔が次々と見えてきます。
知らない間に家族に自分の入り込む隙間がなくなっていたこと、
知らないうちに家庭は戻れないところまで来ていたこと、
自分は何のために不満を溜めこんで働き続けているのか!?
男性の中の不発弾は膨らんで・・・
フォー!!
みたいな(謎)
サラリーマンお父さんの悲哀と辛さがビシビシ感じられます。
お父さん、いつもごめんね、と思う作品です。
父に感謝と謝罪の気持ちを抱く作品です。
そして、一分後にはその謝罪を綺麗に忘れます(ダメじゃん)
そんな人間の心理が強烈に感じられる短編集。
さっと読めて、共感できて、面白い作品でした。