売ることを考える 22 | 芸能の世界とマネジメント

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先日、ある大手の飲食チェーン店を展開する社長が書いた自社の史的展開に関する文章を読んでいたのですが、これはやはり社長自ら体験談を書いているだけに読んでいて非常に面白く、その緊張感や都度の成功に関する感動が実感できるほどリアルなもであり、久しぶりに良いものを拝読させていただきました。そこで経営学者と心理学者の両方をかけ持っている私が思ったことなのですが、この社長が書いていることはまさに「売ることを考える」ことでありまして、売るためにはどうすればよいのかについて人生をかけた人物であります。そこがまず私の共感を生んだのですが、ただ一つだけ残念だと思ったことは、失敗の理由を全てご自身のせいにしておられることであります。失敗の原因はさまざまでありますが、相手が機械であるならばプログラミングミスやバグ取りがしっかりできていなかったなど、これは操作する人のミスでありますが、生身の人間を相手にする商売において、少なくとも心理学的には行動の主体が100%悪いというのはありえません。というのも、布置なるものが出来上がっているからです。この布置の中で人間は行動するわけですから、場合によっては相手が悪い場合や双方に問題がある場合もあり、この点をしっかりと認識することによりより出店を加速できるのではないかと考えております。

 

ここで考えていただきたいのは、A氏の全国展開の問題です。前述の社長は関東から日本全国への出店を成功させ、いまだその勢いは衰えることを知りません。A氏は関東から関西へ出向き挫折を知るのですが、では、前述の社長とA氏とは何が違うのかについて考えなければなりません。

 

A氏は意を決して関東から関西へ進出することになりました。これについては良いことだと思うのですが、ここでA氏は大きな事実を知ることになります。つまり、関西人とは合わないことです。実際の関西人がどのような生態であるかについて書いてもよいのですが、誤解されることも多いので、関西人の名誉のためにもここはあえて割愛します。しかし、A氏は関西人とは水と油の関係であることを思い知ります。ここで大きな壁ができるのですが、全国制覇するためにはこのくらいの壁を乗り越えることができなければどうにもなりません。いわんや嫌なことが続いたとしてもそれを乗り越えていくための努力が必要であるのですが、それをどのように行ってよいのかについての方法が思いつかないどころか、放心状態となっております。つまりこれも「退行」の症状の一つであります。老賢者と言えどもこのようになります。否、老賢者であるからこそ退行が起きるのですが、逆に、老賢者がそんなことでどうする!!と私は思うのであります。こういう時こそ老賢者としての知恵を出すべきであり、退行している場合ではないのです。

 

ここで先ほどの飲食チェーン店の社長の話をよく読み進めてみると、この社長は退行の逆の「進行」を進めるためにどのような具体策を行ったかというと、「すべては自分が悪い」と思うようになったのであります。悪いのは自分自身であってお客さんに否はないと考えることによりブレイクスルーが可能となったのであります。ところがA氏は、「なぜ私がこのような嫌なことばかりに遭遇するのか」と関西人のせいにするようなり、ここに老賢者としての自分自身と現状の自分自身の弱さとが「同一視」されることにより、より関西人が悪く見え、さらに退行が促進されるという負のスパイラルが発生するに至ります。布置という理論から考えてもA氏と関西人との関係があるから退行が起きるわけで、逆にマイナスがあればプラスが必ず存在するこの世の中において、その作用を全く見落としているとしか思えない老賢者の姿がそこにあります。

 

例えば、先ほどの飲食チェーン店の社長は経営環境がマイナスとなった時、つまり、失敗したときは「自分が悪い」というマイナスの思いをもって成功へと導きました。つまり「マイナス×マイナス=プラス」を利用したのです。素晴らしいではありませんか。老賢者といえどもこのように考えることができる老賢者と退行を促進させる老賢者との二タイプあることが新たなる発見となるわけですが、少なくとも飲食チェーン店の社長は自分と相手との関係の中で物事を考えております。それに対してA氏は自分の思いを一方的に関西人に押し付け、「自分は老賢者なのだ!」という無意識、つまり元型が自我を越えて出てきているために多くの人は「古さ(自分より年上の人から強く説教されるイメージ)」のみを感じてしまい、相手にされないのであります。ちなみに、マニアの人のマニアックさを耳にした時に感じる不快感はコンプレックスではなく、もっと奥深くからくるものだと私は考えております。

 

さて、A氏は今後、老賢者としてどのようにバランスをとっていくのかが問われます。つまり、別の環境でどのようにして真の老賢者として自立するのかが問われます。これにはやはりアニマの世界からやり直さなければなりません。つまり、相手の思いを真に理解していこうとする心の弾力性、つまり、女性的な心のあり方がもう一度必要となってきます。そして、これまでの老賢者ではなく、もう一つ大きな老賢者となる方法を考えていかなければなりません。

 

心理学は難しいですけど、生きた学問でありますからそのダイナミズムを解明していくことに日々喜びを感じております。次回はより動きの大きなものになるかと思います。

 

ご高覧、ありがとうございました。