数年前、仕事で1年イギリスに滞在。渡航してすぐ、1999年のBMW523iを購入、仕事のヒマを見てブリテン島および欧州各地を回った。イギリスではAA(JAFのような団体)に入っていたが、英国国内だけなので、ヨーロッパに行くときはその都度、臨時の提携サービスに入る。
万が一の際は、情況を記入し、サインして相手と交わす英国・ヨーロッパ共通書式の保険の用紙があるが、私はほぼ英語しか分からない。だから保険会社からは、ヨーロッパで相手が英語以外の同様の用紙を持ち出してきたら、「この言語は分かりません」と英語で署名の横に書き添えるよう、強く言われた。だが幸い無事故で、その用紙は今回も無用。ただ一度、ドイツでパトカーに捕まった。イギリスナンバーだから、興味を持ったドイツの景観が、銃・麻薬・薬品・酒などを持っていないかの臨検。その警官は英語で話してくれたから助かったが、その経験があったので、後にフランスに行ったときには、フランス語で、銃・麻薬等を持っていませんという書類を1枚作って、車に常備。フランスの警察官が英語を解する可能性はそんなに高くないように思うから。だが幸い、フランスで捕まることはなかった。
ドーバー海峡は、「Eurotunnel」で抜けた。巨大地下鉄に車ごと乗り込むと、対岸まで運んでいってくれる。ネットで車のナンバーを登録して予約・入金すると、ナンバー読み取り装置でそのままゲートを通って乗り場に入れる。「国境」が見当たらないほとんどのEU諸国とは異なり、乗り込む前にフランスとイギリスの間には双方の入管がある。
イギリスの高速道路は時速70マイル制限=110K/h程度だが、大陸では時速130キロ前後が基本なので、とたんに速くなる。特にドイツのアウトバーンは速度制限がある区間が結構多いが、無制限区間もまだある。日本でときどき、「アウトバーンでは200Km/hで走る車も多い」といった記事を見かけるが、そんなことはない、全体は130Km/hで流れており、たまに急いでいる車も、速くても160Km/hくらいだ。200Km/hなど、通常は、いない。私も時たま、180Km/hくらいまで出したが、私の技術からして、140Km/h以上は、あまり出さない方が良い感じだった。160Km/hを越えると、道路の先を見渡し、自分の車の挙動を制御できるか不安になる。私の運転技術で160Km/h以上は、危ない。それから、私のBMWでは、エンジン(ガソリン・2500cc)が非力で、巡航速度の130〜140Km/hから180Km/hまで加速するのに大変時間がかかり、よほど空いてないと、後ろの車に迷惑をかけてしまうし、そんなとき走行車線(右側)に戻ろうと思っても、そちらが比較的混んでいたら、そちらにも迷惑をかけてしまう。英国・ヨーロッパでは、他の車にブレーキをかけさせない、減速させないのが普通で、安全上問題なくとも、走行車線に戻る際、後ろの車に減速を強いるようなことはマナー上、かなりやりにくい。
もうひとつ、日本で時たま言われることで、現地で「これは違うな」と思ったことがある。それは、追い越し車線で、追い越し側のウインカー(英国なら日本と同じ右、ヨーロッパなら左)を出す意味だ。日本では、前方の車に「どいてくれ」とのサインだと解しているひとが時々いるようだが、違う。それは追い越しの際、「現在私は追い越し中です、追い越しが終わればすぐ走行車線に戻ります」という意味だ。右側通行のヨーロッパでも同じ、走行車線から左ウインカーを点滅させて追い越し車線に入り、そのまま左ウインカーを付けっぱなしにしておけば、それは「この追い越しが終わればすぐ、右の走行車線に戻ります、少々お待ち下さい」ということだ。私のBMWは遅いので、よくこのサインを使った。
マナーだが、確かに全体的には、日本よりいいと思う。ただ、日本よりマナーが悪いと感じたことのひとつは、クラクション。例えばラウンドアバウトでの渋滞時。滅多にないことだが、交通量が多くて、ラウンドアバウトになかなか入れず車が並んでしまうと、後ろのほうから遠慮無くクラクションの嵐が起こる。もうひとつ、私が慣れない南仏で、高速道路料金所で、私のクレカを受け付けてくれず、まごついた。そこに並んでた後ろの車たちから、ブーブーとクラクションを鳴らされた。このような、感情に任せた過度のクラクションは、日本ではあまりないのではなかろうか。もうひとつ、マナー上に疑問に感じたのは、大型車である。あおり、道塞ぎなど、欧州の大型車はマナーが悪い。日本とは逆に感じる。日本の道路で走っていると、大型車には、プロとしての矜持があるように思われるのだ。一般車にマナーが悪い車も多くとも、大型にはそれが少ないように私は思う。だが英国や欧州では逆だ。
一方、日本と同じパッシングライトの利用法に遭って感激した経験がある。対向2車線のフランスの山奥で、やってきた対向車が、私にパッシング。日本だと、対向車に対して「この先、警察が取り締まってるから注意した方が良いよ」と親切に教えてあげる時にこうやること多いが、フランスでは…? 果たして、しばらく先に取り締まりのパトカーがいた。警察からかばい合うドライバー同士の協力は、世界共通。
上記、料金所でまごついたフランスには、イギリスやドイツとくらべて有料道路が割と多い。繰り返しになるが、困るのが料金所だった。フランスのETCを装備してない私は無論ETCレーンに突入しないように気をつけはするけれど、機械によって同じVISAカードが効いたり効かなかったり、ひどかったのは現金投入の機械で、最初の2枚までは10ユーロ札が入ったのに、3枚目から入らなくなったことがあった。故障。最終的にはコインを放り込んで事なきを得たが、この時も後ろの車がプープー鳴らして怒り始め、困った。最悪の場合はインターホンで人を呼ぶわけだが、その人が英語できるとも限らないから、緊張する。
私が走った中で、もっとも素晴らしかったのは、フランスの「太陽高速道」(Autoroute du soleil)。リヨンとマルセイユを結ぶ1958年開通の広い高速で、道普請は行き届いており、眺望が素晴らしい。シーズンオフだから交通量も少なかったし。
欧州での車の旅は素晴らしい。飛行機ではなく、地べたを這いつくばって移動すると、点ではなくて線と面で理解することができる。高速の道案内に、歴史的な地名が次々現れる。第一・二次世界大戦でなじみの深い土地で、そこでの戦闘に思いをはせる。その国、その土地の景気を肌で感じる。ドイツの森林は深く、南仏の路地は狭くて運転も荒い。それに、町から遠く離れた田園地帯には、車でしか行けない様々なB&Bも多い。13世紀修道院にその歴史が始まるドイツの宿、イングランド17世紀の荘園領主の家、フランス18世紀のワイナリーのシャトー、20世紀初頭シルクで財を築いたリヨンの商人の庭師の古めかしい小屋。そのほか、いろいろな宿に泊まった。