夢日記|水没してゆく追憶 | 灯台の街へ行くなら、何か光る物を忘れずに。

小学生の頃、徒歩で通学した坂道。


子供が毎日歩くには急過ぎて、

従姉妹や母に何度か手を引いてもらった記憶がある。


嫌悪感の無い不思議な辛さを噛み締めながら

泣きながら歩いた道を

今は大人の足ですいすいと歩んでいた。


そこには誰もいない。


秋には道端の落ち葉を掃除してくれたおばさん。

春には野生の猿から子供を守ってくれた自動車。


みんなどこへ行ったのかと

想像を膨らましながら小学校を目指す。




ふと振り返ると、自分の今まで歩いてきた道が

水の中に沈んでいるのが見えた。


視線を落とせば、坂道は水浸しだった。

全体が冷たい水を流す水路のように。

流れた水は下へ下へと溜まってゆき、

徐々に私の思い出を飲み込む水位を押し上げる。


怖くは無い。


ただ、飲み込まれるのも面倒くさいから、

私は少しだけ速く歩いた。


小学校へ早く行こう。


そこには、

素直だった頃の自分が幼い姿のままで待っていてくれてる。


十数年の内に忘れてしまった大切なものが何かあるのは気付いたけど、

それが何かがわからないんだ。

会えば、もしかしたら、教えてくれるかもしれない。




…小学校に着く前に夢から覚めてしまった。

時計は10時を回ろうとしている。


…夢の中で坂道を歩いていた自分が私だったようには思えなかった。


…ひとつ、思うところは、

もしあのまま小学校に辿りついて過去の自分と対面し、

抽象的で曖昧な何かを教えてもらったとしたら、

素直でなくなっている自分にとっては

それが言葉になったとたんに嘘らしく思えてしまって、

二度と大切な何かが戻らなくなるのではないだろうか。

ということだ。




…手を伸ばすことで手に入らなくなるものってあるよね。

でもそれって、実はもともと手に入らないものが

触れられそうな形で見えてきた幻…例えば、

鏡花水月のようなものだったりすることが多いかな。


私の場合だけかもしれないけど。