無数の透明な歯車が高速で旋回する空間の中央で、
鳴きながら叫ぶように唄う少女がいた。
その歌声は高過ぎて私の可聴域を超える。
時折、耳鳴りのような高音が響くと、
歌詞の意味を脳に直接叩きつけてきた。
「…信じたかった!」
「守りたかった…!」
「…最後に……辛くて、疑…」
「ごめんね…ごめんね…!!」
あまりに悲痛な想いに触れたような気がして、
私は彼女に歩み寄ろうとする。
だけど少女の身体は足の爪先から急速に崩れていく。
柔らかそうに見えた肌は
光る硝子と透明な歯車の破片と欠片を撒き散らしながら
歌声と一緒に周囲の巨大な歯車の狭間に消える。
私が辿り着いた時には、
光を発する事の無かった硝子の欠片しか
彼女の居た場所には残っていなかった。
…彼女の身体は無くなってしまったのに、
歌声は未だに歯車の空間で響き続けている。
それが硝子の欠片から響いてくるようで、
私は跪き、涙の色にも似た珪素の切っ先に指を触れた。
その刹那、欠片が光りだす。
指先から私の持つ色が全て奪われてゆき、
欠片は自らの身体に皹を刻みながら膨張していった。
その傍らで光を屈折させるだけの物質と化した私には、
今まで聞こえなかった高音の旋律が聞こえるようになる。
気付いたことは、
彼女の歌声が高速でもあること。
64ビートで紡ぐ声は
まるで1秒の時間を惜しむかのように
何かの想いを言葉にしようとしていた。
彼女が何だったのか、少しずつ分かりかけてくる…
…。
…ここから先が、うまく思い出せない。
起きた後、夢の記憶は急速に薄れていくもので、
今朝の夢は通勤電車の中で欠けてしまった。
会社のオフィスで記録してる日記なんて、
彼女が残した硝子の欠片ほどしかない。
…抽象的な文章であるほど、
見た人が解釈する意味が変わりやすくなる。
例えば、あの破片が私だけの色で染まってしまったように。